Eighter -Scarlet Nocturne-
52nder 〜降真靈(こうしんりょう)は高くない B〜



#3
(かみ)総介「貴様らの儀式は失敗だ」
反永(たんえい)「何を言い出すかと思えば……馬鹿馬鹿しい」
 現に既に神は召喚できた。これのどこが失敗と言うんだ?と反永(たんえい)は問う。
梓與鷹(よたか)「さっきからその神とやらは微動だにしないし、一言も発しないようだが」
 総介の言いたいことは分かる。と、いう感じで與鷹(よたか)が代弁してみる。
韻麗(いんれ)「あぁ、なるほど……そんなことを気にしていたんですね……」
 それで失敗だと勘違いされたようですが、違いますと首を左右に振る韻麗(いんれ)
韻麗(いんれ)「召喚した対象が召喚主に牙を剥くなんて事故があっては困りますよね?……ですから今回の異世界の神召喚
ガチャの儀では召喚した神をひとまず束縛するというオプションを付けているんですよ」
 だから、我々が命じるまで、この神は一歩も動けないし、一言も発せないのですと豪語する韻麗(いんれ)。
総介「ハッ!馬鹿かてめぇら!」
 與鷹(よたか)がまさかそんなことが可能なのか!?と驚きを隠せずにいると、総介が突如蔑みと共に呟く。
総介「人間如きが作った術式で、神を束縛できるなんて本気で思ってんのか?だとしたらとんだお笑い草だな」
與鷹(よたか)「総……」
 あれ?先ほど総介の言いたいことは分かるって思ったけど、やっぱ違ったみたいだわ……と與鷹(よたか)は内心思った。
慈円(じえん)「それを可能にするのがこのヴァルカナを使った術式なのでは?」
総介「巫山戯(ふざけ)るなよ!貴様らは何もわかっていない!」
反永(たんえい)「貴様ッ!」
総介「……いや、ヴァルカナが場違いな影の遺物(シルエット・オーパーツ)だからこそ、この結果は当然と言うことか……」
與鷹(よたか)「一体どういう……?」
山咲(やまざき)桜「では、質問です。場違いな影の遺物(シルエット・オーパーツ)とは何でしょう?」
 大神の降真靈(こうしんりょう)はひとまず無視して、桜は與鷹(よたか)に問いかける。
與鷹(よたか)「それは……この世界に存在しないはずのアーティファクト?」
袰烏(ほろう)「この世界に存在しない……つまり、異世界の神を召喚するのにこれ以上うってつけのモノはある
まい」
桜「いえ、少し違いますね……場違いな影の遺物(シルエット・オーパーツ)とは、存在しない存在というアーティファクトです」
総介「だから、それを使って呼び出せる神というのは、存在しない……既に存在がなくなった神……人間で言えば
死体を召喚するようなモノ」
韻麗(いんれ)「ハハッ……何を馬鹿な!ならば、私の術式が完璧であることを証明してみましょう。そこな神に命じます!
動け!」

#4
 しかし、いくら待ってもその神が動くことはなかった。
韻麗(いんれ)「……ばっ、馬鹿な……動け!手を挙げろ!名を告げろ!我が意に従え!」
 どんなに命じても、その神は答えない。だってその神は既に死んでいるのだから……
袰烏(ほろう)「では……失敗なのか……わっちらの努力は、全て無駄だったというのか!?」
反永(たんえい)「そん……じゃあ何か、異世界の神召喚ガチャのためにヴァルカナ争奪戦に参加したことは……全くの無意味
だったということなのか?!」
韻麗(いんれ)「そん……な……」
慈円(じえん)「許せませんねぇ!許せませんねぇ!許せませんねぇ!」
 愕然とする大神の降真靈(こうしんりょう)の一員。
反永(たんえい)「ユーサーめ!」
 そして、怒りの矛先は大神の降真靈(こうしんりょう)をヴァルカナ争奪戦に誘ったユーサーに向く。反永(たんえい)はドカンと壁に拳を叩き
つけて忌々し気にそう叫んだ。
與鷹(よたか)(既にユーサーがいないってことは、黙っておこう……)
 すっかり意気消沈してしまった大神の降真靈(こうしんりょう)の面々を見て、これならば、今回は簡単に事態を収拾できるのでは
ないかと與鷹(よたか)は考えていたが、総介の顔がいつになく険しいのを見て、思わず確かめる
與鷹(よたか)「な、なぁ、総……このまま術式をキャンセルすれば、今回の件は終わりでいいんだよな……」
総介「違う」
桜「残念ながら、そういうわけにはいきません……」
 総介が一言呟き、桜が悲し気な目で続ける。
與鷹(よたか)「どういう……」
桜「召喚した死体が、自らの意思で元の世界に戻るなんてことはあり得ない。つまりそういうことです」
與鷹(よたか)「なっ!?」
 つまり、それは殺神死体遺棄事件!
※いや、神を殺した下手人はこの場にいないけど……
袰烏(ほろう)「帰る……」
 しょんぼりとした面持ちでトボトボと本堂を後にする袰烏(ほろう)。
 だが、召喚した神とすれ違ったとき、それは起こった
*「オオオオッ」
 カキンンッ
 突如神が吠え、本堂が瞬時に氷に閉ざされる
與鷹(よたか)「おいおい、死んでるんじゃないのかよ!?」
総介「奴の状態を人間で例えるならば……の話だ。そして、人の『死』と神の『死』は同義と言うわけではない」
 そういうことは早くいってほしいのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。


続

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