Eighter -Scarlet Nocturne-
50ther 〜姉の仇を弟で討つ B〜



#3
 そして、死合は再びソカタと出音(でおん)へと戻る。
荒曲井(あれくせい)ソカタ「どうやら仲間にも見捨てられたようだな……」
 與鷹が参戦しようとするのを総介が止めたことを、ソカタは総介が出音(でおん)を見捨てたと判断した。
出音(でおん)・グロウシュベル「なめ……るなよ……」
 しかし、出音(でおん)は訓練されたシスコンだった。(いや、だから何なの?)
 訓練されたシスコンにとってみれば姉から課せられるプレッシャーなんて日常茶飯事である。つまり、これ位の
加重で押しつぶされるほど、訓練されたシスコンはヤワではないのだ!
出音(でおん)(姉さん、俺に力を!)
 祈りと共にガルシテラヴを握りしめる。
出音(でおん)「オオオオッ」
 ググッ、グググッ
 雄たけびを上げつつ、ゆっくりと立ち上がる出音(でおん)。
ソカタ「まさか、立ち上がれるだけの気力があるとは……」
 感服すると同時に拍手で褒めたたえるソカタ。
出音(でおん)「てめぇに褒められても、嬉しくもなんともねぇんだよ!」
 そのまま加重を無視してソカタに突っ込んでいき、ガルシテラヴで斬りかかる。
出音(でおん)「くたばれ!」
ソカタ(これ以上の加重は無意味か……)
 出音(でおん)の斬撃を軽やかにバックステップで回避しつつ、ソカタはそう考える。
 相手に加重をかけるのも、それなりに体力を消費する。だが、これ以上加重をかけても、あまり効果がないと判
断したソカタは出音(でおん)にかけていた加重を解除。
 いきなり加重を解除すれば、今度はその加重に押しつぶされまいとしていた力に振り回されて自滅すると踏んだ
ソカタだったが、その考えは瞬時に裏切られる。
出音(でおん)「オオオッ!陽明閃刃破(ようめいせんじんは)!」
 ズダダンッ
ソカタ「な、何ぃ!?」
 瞬時に間合いを詰められ、そのままX字に斬り裂かれ……る前に距離をおいて回避に成功するソカタ。
ソカタ(奴は過剰出力を制御しているというのか!?)
 それよりも、ソカタ本人は全くの無傷なのだが、着ていたスーツにX字の斬撃が刻まれたことに戦慄が走った。
ソカタ「ば、馬鹿な……」
 当然、ソカタは自らの幽闘術、量の軽重を問う(ウェイト・ア・モーメント)を駆使し、出音(でおん)の斬撃を軽減させている。だというのにこの威力。
それは出音(でおん)の斬撃がソカタの幽闘術で相殺できる威力を上回っていることを示していた。

#4
出音(でおん)(姉さん、姉さん!姉さぁんッ!)
 ずおおおおっ
 更に出音(でおん)の力が膨れ上がっていく。傍から見ると強大な力を発する出音(でおん)だが、しかし、出音(でおん)の脳内はピンク色に
染まっていた。いや、姉一色に染まっていたというのが正しいか……
 今、出音(でおん)の頭の中では姉との思い出が目まぐるしく駆け巡っては消えていっているのだ。
 浴衣姿の姉と手を繋いで夏祭りに出かけ、一緒に打ち上げ花火を見上げたあの夜の思い出……
 なぜかメイド服姿の姉と腕を絡めて夏祭りに出かけ、一緒に打ち上げ花火を見上げたあの夜の妄想(思い出)……
 なぜかスクール水着姿の姉と恋人繋ぎをしながら夏祭りに出かけ、一緒に打ち上げ花火を見上げたあの夜の妄想(思い出)
……
 更にはネグリジェ姿で以下同文。
 皆さんもご存じかもしれないが、出音(でおん)の幽闘術、この世全ての姉様(アンリ・シス)は姉との思い出(妄想でも可。ここ重要)を
消費して力に変換する代物である。
※お姉ちゃんへの想いが尽きない限り、(理論上)無敵です!
ソカタ(コイツ……)
 逃げるか、いや、自分の幽闘術を信じて最大出力で攻撃を繰り出すか……一瞬だが、ソカタは迷った。
出音(でおん)「終わりだッ!」
ソカタ「はっ!?」
 出音(でおん)の叫びにふと、奴を見る。すると、まるでケンシ□ウがこれまで戦ってきた強敵(とも)を背後に背負う様な感じで、
出音(でおん)の背後に色んな作品に出てくる姉キャラたちの幻影を見た……ような気がした。
出音(でおん)彗天八極剣(すいてんはっきょくけん)ッ、終の秘剣ッ!捌星靉婉破(はちせいあいえんは)ッ!」
 くの字、ノの字、横一文字の斬撃、刺突、横一文字、縦一文字、┐の字、縦一文字の斬撃という八回連続攻撃。
 それは、どこからどう見ても『姉』という字をなぞっていることが明白な、無駄な挙動が目立つ攻撃であった。
ソカタ「ゴッ……ガハッ!?」
 出音(でおん)の敵討ちの旅、これにて終焉す。ソカタは逃げることもままならず、出音(でおん)の姉愛の詰まった渾身の一撃(い
や、正確には八撃だが……)を食らい絶命。
 その肉体はすぐさま砕け散り、後には月桂樹で作られた輪の中に佇む女性とXXIが描かれた透明なタロットカー
ドのようなものだけが残された。
出音(でおん)「姉さん、やったよ!」
 そう呟くと同時に、出音(でおん)はその場に(くずお)れるのであった。


続

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