Eighter -Scarlet Nocturne-
44ther 〜因縁渦巻く影埼玉(ネオサイタマ) D〜



#7
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「おらおら!そんな緩慢な動きで双虎拳をどうにかできると思ったら大間違いだぜ!」
 迫りくる死者相手にイキる漢。それが化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)である。
縄網光弦(じょうもう・こうげん)奥疎(おきざかる)」
 ジャララララッ
梓與鷹(よたか)「気を付けろ!」
梶太郎(かぢだろう)「うおっ!?」
 死者相手にイキっていたのがアカンかった。そんな隙を見逃す程咲魔(サイタマ)先代棟梁は甘くなく、鎖分銅が梶太郎(かぢだろう)に迫
る。
 が、寸でのところで與鷹(よたか)が声をかけてくれたことにより、首に巻き付こうとした鎖分銅に右腕を滑り込ませ、ど
うにか絞殺されるのを防ぐ。
光弦(こうげん)「フンッ」
 しかし、光弦(こうげん)の攻撃はここからが本番だ。鎖分銅が巻き付いた梶太郎(かぢだろう)を上空へ持ち上げ、そのまま地面に叩きつ
ける。
梶太郎(かぢだろう)「うごお!?」
 しかも一度だけではない。二度、三度、四度……
梶太郎(かぢだろう)「ぐっ、ごほお!?」
與鷹(よたか)(ちっ、助けに行こうにも、下手に動くわけにもいかんか……)
 助けに行こうとすれば、すかさず、梶太郎(かぢだろう)をハンマーの様にぶつけてくるだろう。だから、迂闊に動けないのだ
(かみ)総介「フッ、地獄のメリーゴーラウンドだな」
梶太郎(かぢだろう)(だが、これしき、双虎拳の伝承者である俺にとってはなんてことはない!)
 とかなんとか内心思いつつ與鷹(よたか)に向けて親指を立てているのだが、ウェルが回復してくれているから大丈夫なの
であって、梶太郎(かぢだろう)単体の力ではないので注意してほしい。
光弦(こうげん)辺疎(へざかる)」
 ジャラララッ
 梶太郎(かぢだろう)を持ち上げては地面に叩きつけるという攻撃を暫く続けたのち、光弦(こうげん)は自分の手元に梶太郎(かぢだろう)を引き寄せる
 それだけではない、引き寄せて直刀でトドメを刺すというのがこの技の真骨頂だ。
 しかし、梶太郎(かぢだろう)も引き寄せてくれるのならば、その勢いを利用してカウンターアタックを食らわそうと考えてい
た。
梶太郎(かぢだろう)「おらあ!」
光弦(こうげん)「ぬっ!?」
 ガギィンッ
 しかし、光弦(こうげん)もいくつもの死線を潜り抜けてきた猛者であった。梶太郎(かぢだろう)がカウンターを狙ってくるとわかるとす
ぐさま直刀でガード。だが、双虎拳の拳で直刀を止められるはずもなく、梶太郎(かぢだろう)の拳が光弦(こうげん)を捕える。
光弦(こうげん)「ぐおっ!?」
梶太郎(かぢだろう)「どうだ!一矢報いてやったぜ!」
 そしてまたドヤ顔の梶太郎(かぢだろう)。そういうところやぞ。

#8
総介「今すぐ逃げろ!」
梶太郎(かぢだろう)「ああぁ!?」
 カカッ
 ズグウンッ
 総介の叫びと同時に、梶太郎(かぢだろう)が……いや、光弦(こうげん)がいた場所が爆炎に包まれる。
光弦(こうげん)「フッ、忍びとは死を前提に作戦を立てる生き物……」
 そして、ヴァルカナリアクターの回復能力を手に入れた今の儂ならば、多少の無茶も可能!と豪語する光弦(こうげん)梶太郎(かぢだろう)「ゲホゲホ……死ぬかと思ったぜ……」
 殺した……とまではいかなくとも、戦闘続行は不可能な傷を負わせることができたと思っていたのに、多少焦げ
ている程度で無傷な梶太郎(かぢだろう)を見て、光弦(こうげん)は驚きを隠せない
光弦(こうげん)「なっ、馬鹿な……あの爆発を生き延びるか……貴様不死身か!?」
梶太郎(かぢだろう)「てめぇには言われたくねぇよ!」
 そう……人智を超えた回復能力を持っているのは光弦(こうげん)だけではない。魔導書娘・ウェルと人書一体となっている
梶太郎(かぢだろう)だって、多少の無茶は出来るのだ。
総介「フッ、自爆系の技は全て奴に任せておけば問題無さそうだな」
梶太郎(かぢだろう)「おうよ、俺に任せろ……って、ちょっと待てよ!」
 梶太郎(かぢだろう)が何か言いたそうだが、無視。
 更に光弦(こうげん)の操る死者もその全てを粉微塵に打ち砕いた與鷹(よたか)と総介は勝負を決めるべく光弦(こうげん)へ飛び掛かる。
光弦(こうげん)「有象無象では足止めにもならんか……」
梶太郎(かぢだろう)「ヘッ、死者を操るとかいう幽闘術もたいしたことなかったな!」
與鷹(よたか)、総介「オオッ!」
 更に、今がチャンスとばかりに與鷹(よたか)と総介も攻撃を繰り出す。
 ガキィンッ
與鷹(よたか)「なっ!?」
総介「チッ」
 しかし、地中から鉤棍を装備した死者と直刀を装備した死者が出現し、與鷹(よたか)、総介の攻撃を止める。
與鷹(よたか)「なっ、コイツ……今までの死者と違う!?」
 しかも、その死者は今までの有象無象の死者と違い、動きが緩慢ではなかった。
光弦(こうげん)「そやつらは、かつて儂と共に咲授(しょうじゅ)の儀に臨み、そして儂に一歩及ばず敗北した者たちよ」
 鉤棍を装備した方を渡瀬游彗(わたらせ・ゆうすい)、直刀を装備した方を五羅恢翫(いづら・かいがん)と言う。
 縄網光弦(じょうもう・こうげん)が上毛高原で群馬ならば、渡瀬游彗(わたらせ・ゆうすい)渡良瀬(わたらせ)遊水地で栃木、五羅恢翫(いづら・かいがん)五浦(いづら)海岸で茨城と言うことだ
梶太郎(かぢだろう)「おいおい、群馬と栃木と茨城が争って、勝ったのが群馬って、傑作じゃねぇか!」
 そして、そのことに気づいた梶太郎(かぢだろう)はいち早くいらんことを叫ぶ。

#9
光弦(こうげん)「やはり貴様は儂が直々に殺しておかねばならぬようだな!」
 ここまで虚仮にされたのなら、怒るのも納得である。
 ジャラララッ、カシャアッ
梶太郎(かぢだろう)「な、なにぃ!?」
 再び鎖分銅が飛んでくるが、今度は手枷が付いているタイプだった。そして、そんな手枷が梶太郎(かぢだろう)の左手に嵌る
光弦(こうげん)咲魔(サイタマ)式決闘捕縛陣……貴様だけは絶対に逃がさん!」
 普通、鎖に繋がった手枷は片方が錘となっているのだが、この手枷は違った。両端が手枷となっており、もう片
方の手枷は光弦(こうげん)の左手に繋がっていたのだ。
梶太郎(かぢだろう)「互いに左手を封じられた状態での闘いってことか……いいぜぇ、貴様に双虎拳鉄の掟を見せてやる!」
與鷹(よたか)梶太郎(かぢだろう)の奴、大丈夫なのか?」
総介「フン、人の心配をしているヒマがあったらまずは自分の心配をしろ!」
與鷹(よたか)「そりゃそうだ」
 まずは目の前の死者を倒さなければどうにも始まらない。
 梶太郎(かぢだろう) VS 光弦(こうげん)與鷹(よたか) VS 游彗(ゆうすい)、総介 VS 恢翫(かいがん)……三つの戦いはまだ始まったばかりなのだ


END

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