Eighter -Scarlet Nocturne-
42nder 〜智利(チリ)(ちゅ)ら伝(かげ)り剣 C〜



#5
 ヴァルカナ争奪戦を勝ち抜くためには、別動隊が必要。
古畑呂司(りょうじ)(本当に別動隊なんてものが動いているのか?)
 だが、総介の言葉に素朴な疑問を挟み込む呂司(りょうじ)。
新田姜馬(きょうま)(ヴィルヘル・奈美が妙に消極的なのもその証拠だ)
呂司(りょうじ)(なるほど、流石ですね!)
 総介が言えば疑うが、姜馬(きょうま)が言えば盲目的に従う漢、それが呂司(りょうじ)だ。
ジョスィフ・クロード「クソッ……」
慈円(じえん)「厳しい状況ですが……ヴァルカナを手に入れるまであきらめるわけにはいきません」
 そして、不利な状況にも関わらず大神の降真靈(こうしんりょう)、ノース光輪結社が撤退しないことも、別動隊が動いている証左
だと姜馬(きょうま)、総介は睨んだ。
姜馬(きょうま)(では、ここは任せる。行くぞ!)
呂司(りょうじ)(はい!)
 かくて、姜馬(きょうま)呂司(りょうじ)は一旦戦線を離脱し、ヴァルカナを探しに行く。
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「おい、あいつらどこに行ったんだ?」
(かみ)総介「フッ、奴らには別の任務がある」
梶太郎(かぢだろう)「あ、そう……」
 自分で聞いておきながら、興味ナッシングな梶太郎(かぢだろう)であった。
梓與鷹(よたか)「で、総……俺たちはどうするんだ?」
 奴の常軌を逸したスピードにカウンターを仕掛けるのは不可能。しかし、こちらからの攻撃は防がれる。
 これでは詰みだ……
総介「だが、まだ出来ることはある!影蒼入滅(えいそうにゅうめつ)(きわみ)!」
 そう叫ぶと総介は、地面に蒼王の刃(ブルーロード)を突き刺す。
ヴィルヘル・奈美「はっ!?」
 ガギュゥウ〜〜〜ンッ
 ヴィルヘル・奈美の影から刃が出現し、彼女を突き刺そうとしたその次の瞬間、爆発的な加速をもってして上空
に逃れるのを見て、総介は確信した。
総介「フッ……やはりな……」
梶太郎(かぢだろう)「何がだよ!?」
與鷹(よたか)(今のは爆発による自動防御が発生しなかった!?)
総介(そうだ……どんな優れた武人でも……いや、その道の達人だからこそ、意識の外からくる攻撃には反応でき
ない……別に常軌を逸したスピードを用いなくとも攻撃を当てることは可能ということだ)
 反応が、知覚が間に合わなければ防御は不可能。シンプルな答えだが、シンプルな答えだからこそ、いかに難し
いかもわかる。
慈円(じえん)「どうやら覚悟を決めるしかなさそうですね……」
 與鷹(よたか)がダメージを覚悟で飛び出そうとした矢先、慈円(じえん)がぽつりとそう漏らす。

#6
慈円(じえん)「あなたに、仏の慈悲を!」
 ズガアムッ
 しかし、慈円(じえん)は先ほどの失敗を忘れたかのように、ヴィルヘル・奈美に殴りかかり、そして、爆発で派手に吹き
飛ばされる。
ジョスィフ「ハッ!気でも狂ったか!?」
慈円(じえん)「いいえ、私は至って正気ですよ」
 鼻で笑うジョスィフに、ふらつきながら立ち上がった慈円(じえん)が告げる。
奈美「どうやら、仏の慈悲とやらが下されるのはあなたの方になりそうですね」
慈円(じえん)「フッ、何とでも言いなさい。……次の一撃で、あなたは私の幽闘術、三蠱の零(トリプル・ゼロ)の恐ろしさを身をもって知る
ことになるでしょう」
 慈円(じえん)の只ならぬ覚悟に……気配に、一同は微動だにできない。
奈美「……ッ!?」
 そして、その時、彼女も気づいた。慈円(じえん)の真意に
総介「なるほど……肉を切って骨を断つ……それほどの覚悟か……」
梶太郎(かぢだろう)「え!?いや、どういう!?」
與鷹(よたか)「奴の幽闘術……それは攻撃を三回当てて全てを粉砕する……必ずしもそれは連撃でなくてもよい……」
 ダメージを覚悟して既に二撃当てた。だから、慈円(じえん)からしかけても、ヴィルヘル・奈美から仕掛けても、次の攻
撃が当たった時、ヴィルヘル・奈美は粉砕される……
 ヴィルヘル・奈美は迂闊に動けない。しかし、慈円(じえん)は自由に仕掛けることができる。ここに形成は逆転した。
 もはや彼女にできることは撤退しかない。だが、ヴァルカナ争奪戦をかき乱すという目的が達成されないまま撤
退することはありえない。
奈美(いえ、ここまでかき乱せば、今回のヴァルカナ争奪戦としては上出来でしょう……)
 そこまで考えると、奈美は踵を返す
ジョスィフ「てめぇ、逃げる気か!?」
奈美「ええ。今回はここまでとしましょう」
慈円(じえん)「逃げられるとでも?」
奈美「逆に問いましょう。私に追いつけますか?」
一同「……ぐっ、それは……」
 つまり、それが答えだ。
 表面上は穏やかだが、慈円(じえん)はギリギリと歯ぎしりをしている様子だった。
奈美(確信が持てました。この状況は持ち越されない)
 ガギュゥウ〜〜〜ンッ
 奈美が今回一番知りたいことも知れた。ならば、後は撤退あるのみ。こうして、彼女は常軌を逸したスピードで
この場を離れるのであった。


続

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