Eighter -Scarlet Nocturne-
40ther 〜白虎と魔狼の終局 C〜



#5
 苛立ちをぶつけるように拳を振るう(ゆたか)。
 暫くの後、(ゆたか)はいよいよキれた。
天宮裕(あまみや・ゆたか)「オオオッ!戮狼戴天(ろくろうたいてん)!」
 ドゴオオッ
 拳に纏ったオーラが狼の顔を形成し、梶太郎(かぢだろう)に食らいつきそのまま吹き飛ばす。
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「ごはっ!?」
 だが、梶太郎(かぢだろう)もただ吹き飛ばされるだけではなく、後方に飛び退って威力を殺すと体勢を立て直す。
(ゆたか)「いいだろう、貴様には地獄よりも苦しい死をくれてやる!幽闘術、悪魔が来たりて喇叭を吹く(ディアボリック・トランペッター)!」
梶太郎(かぢだろう)「それがお前の幽闘術か……」
(ゆたか)「あぁ、本来ならば、與鷹(よたか)を抹殺するための拳……だがッ!貴様を殺すために特別に見せてやろう!」
 與鷹(よたか)を抹殺するため……つまり、それ以外の相手には使いたくない。と言うのが(ゆたか)の心情である。
※それは、情報が洩れて解析・対策されるのを防ぐため……なのかもしれない。
(ゆたか)「死ね!魔狼劉手(まろうりゅうしゅ)冰焔烈(ひょうえんれつ)!」
 ドドッ
 炎を纏った拳と氷を纏った拳で梶太郎(かぢだろう)を挟み込むように殴りつける。
梶太郎(かぢだろう)「ヘッ、ただの連打……ごほあっ!?熱ッ、いや寒ッ!?」
 体中が燃えるように熱く、それでいて、冷凍庫に閉じ込められたかのような寒気が走る。
(ゆたか)七狼滅掌(しちろうめっしょう)……これを食らったが最後、貴様はもう死ぬしかないッ!」
※そこ、與鷹(よたか)も一回食らったけど死んでなくね?と、言わないように。
 通常ならば、(ゆたか)七狼滅掌(しちろうめっしょう)が決まった時点で、相手は死ぬしかなかった。しかし、梶太郎(かぢだろう)は違う。
 梶太郎(かぢだろう)は魔導書娘・ウェルと融合している。そして、その最大の目的は梶太郎(かぢだろう)の傷を治療するためである。
 つまり、ちょっとやそっとの傷(そうか?結構致命傷だと思うけど……)では梶太郎(かぢだろう)を倒すことはできないので
ある。
(ゆたか)「苦しみの中で死ね!それが俺の双狼拳に歯向かった愚か者が味わう地獄だ!」
 そのまま踵を返し與鷹(よたか)の下へと向かおうとする(ゆたか)。しかし、その歩みを梶太郎(かぢだろう)は止める。
梶太郎(かぢだろう)「おい、ちょっと待てよ!勝負を捨ててどこへ行こうってんだ?」
(ゆたか)「馬鹿な……貴様は死んだはず!?」
梶太郎(かぢだろう)「おいおい、勝手に殺すなよ、馬鹿野郎!……勝負はまだ、ここからだぜ、おらあっ!」
(ゆたか)「チッ……このくたばり損ないが!」
 殴りかかってくる梶太郎(かぢだろう)の拳を軽く躱しながら、忌々し気に(ゆたか)が呟く

#6
梶太郎(かぢだろう)「貴様に見せてやるぜ!双虎拳鉄の掟って奴をなぁ!金鯱流楼(きんこるろう)!」
※そこは双虎拳の神髄ではだめなのか?
(ゆたか)「いいだろう。ならば今度こそ死ね!魔狼劉手(まろうりゅうしゅ)爛蒸隕(らんじょういん)!」
 流れる水のような華麗なステップで(ゆたか)を翻弄し、頃合いを見て拳を繰り出す梶太郎(かぢだろう)。
 そんな梶太郎(かぢだろう)に合わせて炎を纏った拳で殴りかかる(ゆたか)。
 ボコボコボコッ
 バァンッ
梶太郎(かぢだろう)「なっ!?ななっ!?」
 突如右腕に違和感を感じてみてみると、物理的に血沸き肉躍り、そして、破裂する。
梶太郎(かぢだろう)「うごおおおっ!?」
 完全に躱していたと思ったが、どうやら掠っていたようだ。
(ゆたか)「その腕ではもはや双虎拳は使えん!勝負あったな!」
 ニヤリと悪い笑みを浮かべる(ゆたか)梶太郎(かぢだろう)「なめんなよ!双虎拳が拳打だけだと思ったら大間違いだぜ!」
(ゆたか)「それはいいことを聞いた!」
 片脚を上げてキックを繰り出す梶太郎(かぢだろう)。そんな蹴りを軽く躱しつつ左手で受け止めると同時に拳を繰り出す(ゆたか)
(ゆたか)「今度こそ死ね!魔狼劉手(まろうりゅうしゅ)苦蓬彗(くほうすい)!」
 ズブリッ
 邪気を纏った一本拳で脚を刺し、邪気毒を注入する(ゆたか)梶太郎(かぢだろう)「き、貴様、何を!?」
 一本拳が突き刺さった部分からみるみる紫色に変色していく脚。これは明らかにヤバい。
梶太郎(かぢだろう)「うおおお!」
 すぐさま手刀で膝から下を切り落とす梶太郎(かぢだろう)(ゆたか)「ハハッ、これで脚も使えなくなったな!」
 明らかに見下しながら(ゆたか)が言う。
(ゆたか)「目には目を、歯には歯を、念には念を!……ここで手を緩めないことが勝利への道!双狼拳鉄の掟に従い、今
度こそ貴様に死をくれてやるわ!」
 いや、どう考えても双狼拳にそんな掟は存在しない。これが双狼拳を地に貶めた(ゆたか)の本性である。
※そもそも、鉄の掟とか言い出すのは双虎拳の連中ではなかったのか?
(ゆたか)「砕け散れ!魔狼劉手(まろうりゅうしゅ)霄闇壊(しょうあんかい)!」
 文字通り手も足も出ない梶太郎(かぢだろう)に渾身の拳打を繰り出す鬼畜な(ゆたか)。
 その衝撃は、梶太郎(かぢだろう)の肉体を滅し、更に大地を砕く。
(ゆたか)「フフフ……フハハハハ!どうだ!これが双狼拳!貴様如き双虎拳が敵う相手ではないわ!」
 最早既に双狼拳ではないのだが、それはさておき、ここで一旦梶太郎(かぢだろう)の意識は途切れる。


続

前の話へ  戻る  次の話へ