Eighter -Scarlet Nocturne-
40ther 〜白虎と魔狼の終局 D〜



#7
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)(うっ!?……お、俺は、死んだのか!?)
 與鷹(よたか)を抹殺するためだけに編み出された悍ましい必殺拳、それを食らって、梶太郎(かぢだろう)の肉体は腰から下の1/3が消
滅するという凄まじい状況に陥っていた。
ウェル(あ〜、うん。そね……)
梶太郎(かぢだろう)(なんてこった……)
※こんな会話が発生してますが、それでもなお、梶太郎(かぢだろう)は死んでません。
 (むし)ろ、ウェルの能力で緩やかに回復というか、失われし肉体が復元されつつあります。
 このまま緩やかに回復が行われれば、時間がかかるだろうが、梶太郎(かぢだろう)は再び立ち上がることができる。だが、そ
れでは遅いのだ。
梶太郎(かぢだろう)(俺が奴を倒す!いや、倒さなければならない!)
 おそらくだが、(ゆたか)では與鷹(よたか)には勝てないだろうと、梶太郎(かぢだろう)は思っていた。
 しかし、與鷹(よたか)はああ見えて優しいところがあるから、今回も、(ゆたか)を殺すことはしないだろう。だが、それではダ
メなのだ。(ゆたか)與鷹(よたか)の因縁を断ち切るためには、(ゆたか)を殺すしかない!……そして、その汚れ仕事を行えるのは、俺
しかいない!
梶太郎(かぢだろう)(だから、こんなところで寝ている場合ではないッ!)
 無傷の左手を強く握りしめつつ、梶太郎(かぢだろう)は吠える。
ウェル(あ〜、うん。そね……)
梶太郎(かぢだろう)(ウェル!今すぐ俺を治せ!……例えこの死合の果て、俺が死ぬことになろうとも、構うものか!)
ウェル(あ〜、うん。そね……)
※魔導書娘は決まった言葉しか喋らないので、会話を行うことは困難です。
 ただ、それでも、ウェルは梶太郎(かぢだろう)の想いを受け止めた。ウェルもウェルで(ゆたか)には思うところがあったのも後押し
となった。
 しかし、とはいえ、失われた肉体を復元させることは容易ではない。だが、幸いなことに、地中には無数の動物
が住んでおり、ウェルはそれを素材として使うことを選んだのだ。
 カカアッ
天宮裕(あまみや・ゆたか)「な、なんだ!?」
 梶太郎(かぢだろう)を叩き潰した場所から突如、光が天を賭ける。
梶太郎(かぢだろう)「おい、待てよ、どこへ行くつもりだよ?てめぇの相手は俺だって言っただろ?」
(ゆたか)「なっ!?馬鹿な……ありえん!」
 地面の底から勢いよく飛び出した梶太郎(かぢだろう)は、五体満足だった。
梶太郎(かぢだろう)「行くぜ!(ゆたか)!勝負はまだこれからだ!」
(ゆたか)「チッ、クソがッ!……ならば、いいだろう、何度でも殺してやる!」

#8
(ゆたか)「死ねや!魔狼劉手(まろうりゅうしゅ)飛蝗淵(ひこうえん)!」
 ドドドドドッ
 邪気で作られた無数の飛蝗が梶太郎(かぢだろう)を襲う。
梶太郎(かぢだろう)「おおお!金鯱流楼(きんこるろう)!」
 流れる水の如く華麗なステップでそれらを躱すと同時に打ち砕く梶太郎(かぢだろう)
梶太郎(かぢだろう)(……これは……体が軽い……)
 今まで以上にスムーズに体が動くことに驚きを隠せない梶太郎(かぢだろう)
ウェル(あ〜、うん。そね……)
 ウェルと梶太郎(かぢだろう)……今、ここに二人で一人……いや、二つで一つ……いや、正しくは一人と一冊で一つ?……と
もかく、ウェルと共同で死合に望んでいた。
梶太郎(かぢだろう)「へっ、なんでもいい。てめぇをぶちのめせるのならなぁ!」
(ゆたか)「なめるな!幽闘術と組み合わせた双狼拳は最強!てめぇ如きに負けるわけがねぇ!魔狼劉手(まろうりゅうしゅ)硫焉騎(りゅうえんき)!」
 (ゆたか)が三人に分身すると同時に一斉に梶太郎(かぢだろう)に殴りかかる。
(ゆたか)「死ね!」
 炎と邪気を纏った拳が梶太郎(かぢだろう)を貫く。
 バサアアッ
(ゆたか)「勝っ……何!?」
 (ゆたか)が勝利を確信したその次の瞬間、梶太郎(かぢだろう)が書類の束となって散っていく。
(ゆたか)「野郎、どこに!?」
 ゴリゴリゴリッ
(ゆたか)「おごああ!?」
 梶太郎(かぢだろう)の行方を追おうとした矢先、(ゆたか)が貫いた紙片が、まるでフェ〇トゥムがファ〇ナーの腕をねじ切るような
感じで(ゆたか)の腕を壊す。
梶太郎(かぢだろう)「これは、テメェに乱暴されたウェルの分ッ!」
(ゆたか)「あぁ!?……てめぇ、殺す!」
 何がウェルの分だ!って感じで怒りを露にする(ゆたか)。
 更に邪狼群憑(じゃろうぐんひょう)の応用で小手のようなものを作り、壊された腕をカバーする。
梶太郎(かぢだろう)「俺は與鷹(よたか)程優しくはねぇからな、覚悟しろよ!」
(ゆたか)「ハッ!てめぇには地獄すら生温い苦痛を与えて、絶望の底へ叩き落してから殺す!」
 今まで以上にドス黒いオーラが(ゆたか)を包む。
(ゆたか)「ハッ!魔狼劉手(まろうりゅうしゅ)滅世撰(めっせいせん)!」
梶太郎(かぢだろう)双虎旋天殺(そうこせんてんさつ)!」
 真っ先に梶太郎(かぢだろう)の視界を潰しにかかる(ゆたか)。しかし、梶太郎(かぢだろう)の拳の方が一段早く(ゆたか)に届く。
(ゆたか)「なっ!?……ばっ、馬鹿なぁあああッ!?そんな馬鹿なことがあああッ!?」
 瞬時に三回の拳打を叩き込む翠虎弾(すいこだん)の三連撃、その上で左右から紅虎爪(こうこそう)空虎剪(くうこせん)を打ち込み首の骨を完全に叩き
砕く。
 さしもの(ゆたか)も、首をへし折られれば人間として再起不能だ。これにて與鷹(よたか)(ゆたか)の因縁は終了するのであった。

#9
梶太郎(かぢだろう)「はぁはぁ……もう一歩も動けねぇ……」
 そのまま大の字に地面にぶっ倒れる梶太郎(かぢだろう)。
ウェル(あ〜、うん。そね……)
 ちっとも労をねぎらっている感じがないが、これでも最大級の労いである。
※いや、労いの言葉じゃないですが……
梶太郎(かぢだろう)「パト〇イバー、俺もう疲れたよ……」
 そこはパト〇ッシュじゃないのか?と誰も突っ込み役がいないのが残念だが、ともかく、梶太郎(かぢだろう)はまるで死んだ
かのように目を瞑る。
 (ゆたか)との死合を経て、生命を燃やし尽くして死んだ……かに思われたが、そんなことはない。
 今回は流石にウェルに無茶をさせたこともあり、このまま静かに回復する作業が必要不可欠なのだ。
 
 と、言うわけで、今回のヴァルカナ争奪戦、梶太郎(かぢだろう)はここでリタイアとなるのだが、ヴァルカナ争奪戦はまだ終
わらない……いや、そもそも、今回のヴァルカナ争奪戦はここからが本番である。
 果たして、エトナ火山に眠るヴァルカナは誰の手に渡るのか!?


END

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