Eighter -Scarlet Nocturne-
40ther 〜白虎と魔狼の終局 B〜



#3
 (ゆたか)との因縁は與鷹(よたか)のもの。ならば、この死合、受けて立つは與鷹(よたか)であるのが当然。
 しかし、今はそんな些細な怨讐よりも、ヴァルカナ争奪戦が優先なのも事実。
(かみ)総介「フッ、奴の相手を進んで買って出てくれるんだ。ありがたい話だな」
 ポンと與鷹(よたか)の肩を叩きながらそんなことを呟く総介
梓與鷹(よたか)「総……」
 総介と梶太郎(かぢだろう)、双方を一瞥して、與鷹(よたか)はヴァルカナ争奪戦を選ぶ
與鷹(よたか)「死ぬなよ……」
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「ヘッ!俺を誰だと思っていやがる!いずれ與鷹(よたか)を倒す漢だぞ!」
総介「フッ、モテモテだな」
與鷹(よたか)「全然嬉しくない……」
天宮裕(あまみや・ゆたか)「てめぇ……逃がすか!」
梶太郎(かぢだろう)「おおっと、お前の相手は俺だ!」
 與鷹(よたか)に殴りかかろうとする(ゆたか)梶太郎(かぢだろう)が止める。その隙に與鷹(よたか)らはエトナ火山へと急ぐ。
(ゆたか)「……チッ、良いだろう。ならば、貴様から先に殺す!……大体、双虎拳如きで双狼拳を倒せるわけねぇだろ」
梶太郎(かぢだろう)「ヘッ、貴様こそ、双虎拳をなめるなよ!」
(ゆたか)「フッ、ハンデだ……まずは貴様から一撃叩き込んで来いよ!」
梶太郎(かぢだろう)「あ?」
 明らかに梶太郎(かぢだろう)を侮辱する一言。その言葉に梶太郎(かぢだろう)はカチンと来た。
(ゆたか)「貴様の弱点は分かってるんだよ!貴様は双虎拳を使いこなせない!」
 それは明らかに以前の梶太郎(かぢだろう)虎伏絶掌(こふくぜっしょう)のことを言っているようだった。
梶太郎(かぢだろう)「……後悔すんなよ……虎伏絶掌(こふくぜっしょう)!おらぁっ!」
 ひゅっ
(ゆたか)(な、に!?)
 (ゆたか)は明らかに梶太郎(かぢだろう)のことを侮っていた。故にこれは(ゆたか)の最初で最後の慢心にして、最大にして致命的な隙だっ
た。
梶太郎(かぢだろう)「てめぇの持っている情報は古すぎる!今の俺は双虎拳を使いこなせるんだよ!」
 ドゴオンッ
(ゆたか)「ぐげぇ?!」
 しかし、(ゆたか)(ゆたか)で腐っても双狼拳の使い手、迫る梶太郎(かぢだろう)の拳をなんとか躱して距離をとる。
(ゆたか)「ハァハァ……いいだろう、てめぇは與鷹(よたか)の前に殺す!邪狼群憑(じゃろうぐんひょう)!」
 虎伏絶掌(こふくぜっしょう)に対抗するために、(ゆたか)も黒い気を纏って力を底上げする。
(ゆたか)虐狼魔覇(ぎゃくろうまは)!」
梶太郎(かぢだろう)金鯱流楼(きんこるろう)!」
 上空を舞い、そのまま重力加速をつけて貫きにかかる(ゆたか)を華麗に回避するとカウンターを決める梶太郎(かぢだろう)(ゆたか)「くっ、てめぇ……」
梶太郎(かぢだろう)「どうした?そんなもんかよ、双狼拳?」

#4
(ゆたか)「調子に乗るな!双虎拳如きがッ!」
 ドッガッ
 拳と拳の応酬。スピード、パワー、正確さ……総じて互角。
 それ故に、双虎拳如きに互角の勝負をせねばならないことに(ゆたか)は苛立ちを隠せずにいた。
(ゆたか)「てめぇには失望したぜ!」
梶太郎(かぢだろう)「あぁ?失望だぁ!?」
(ゆたか)「てめぇならば俺と同じく、與鷹(よたか)をぶっ殺すことが至上の喜びだと思っていたのになぁ!」
 それなのに、今の貴様はどうだ!與鷹(よたか)の走狗になり果てた貴様には失望しかない!と(ゆたか)は吠える。
梶太郎(かぢだろう)「ハッ!失望したのはこっちの方だ!真っ当に拳を磨けばてめぇとも強敵(とも)になれたかもしれないってのに…
…」
 てめぇは復讐に凝り固まって、周りが見えてない。ガッカリだ!と豪語する梶太郎(かぢだろう)(ゆたか)「なめるな!双虎拳如きがッ!」
 ドッ、ゴガッ
梶太郎(かぢだろう)「ぐふっ!?がっ!?」
 (ゆたか)の怒りに呼応するかのように、邪悪な力が増幅し、(ゆたか)の拳が早く、重く、梶太郎(かぢだろう)にのしかかる。
(ゆたか)「てめぇ如きが、双虎拳如きが、双狼拳に勝てると思うなよ!」
梶太郎(かぢだろう)「そうだな、確かに、双虎拳では双狼拳に勝てないのかもしれない……だが、俺はてめぇには勝てる!」
 それは、與鷹(よたか)と何度か死合い、そして、今(ゆたか)と死合って気づいたことだった。
 確かに、(ゆたか)の力は強大だ。でも、與鷹(よたか)程ではない。純粋な力比べならば、邪狼群憑(じゃろうぐんひょう)を使っている(ゆたか)の方が與鷹(よたか)よ
り上かもしれない。それでも、梶太郎(かぢだろう)與鷹(よたか)(ゆたか)に敗北するとは思えなかった。
梶太郎(かぢだろう)(あぁ……そうか、そうなんだな……)
 今の(ゆたか)は、ありえたかもしれない梶太郎(かぢだろう)の姿。もしも、梶太郎(かぢだろう)與鷹(よたか)を倒すという怨讐に凝り固まったままだっ
たならば、今の(ゆたか)の様になっていたかもしれない。
 そういう点では(ゆたか)は出会いに恵まれなかったと言える。そして、それは残念なことだと梶太郎(かぢだろう)は思った。
梶太郎(かぢだろう)(だからこそ、コイツに引導を渡すのは俺でなくてはいけない……)
 そんな使命感を胸に、梶太郎(かぢだろう)は拳を振るう。
(ゆたか)(何故だ!?何故だ!?何故だ!?なぜコイツは俺と渡り合える!?何故だ……何故コイツは、與鷹(よたか)と同じ眼を
する!?……何故だ?!)
 そしてそんな梶太郎(かぢだろう)とは裏腹に、(ゆたか)は精神的に追い詰められていた。
 梶太郎(かぢだろう)よりも強いという自負がある。それなのに、圧倒できないことに対する苛立ち。これが、道を誤るという
ことに気づけないようでは、(ゆたか)に未来はないのに


続

前の話へ  戻る  次の話へ