Eighter -Scarlet Nocturne-
32nder 〜孤島に眠る影社札(ヴァルカナ) A〜



#0
 ヴァルカナ……それは0〜XXIまでの数値を持つタロットカードのようなアーティファクトだが、それぞれが一枚
しかないわけではないということが分かったことでヴァルカナ争奪戦は新たな局面を迎えることとなる。
 ヴァルカナを巡る争い、その果てには一体何が待っているのか……今はまだ誰も知らない。

#1
 GB夫人(ミセスグレートバシャール)の屋敷にて
 バカでかい手裏剣を背負い、苦無やら直刀で全身を固めた星露(シンルー)・ユピテルメア。
 そんな彼女が今、屋敷を出ていこうとしていた。が、しかし、呼び止められる。
ヴィルヘル・奈美「ちょっと待ちなさい。そんな恰好でどこへ行こうというのです?」
星露(シンルー)・ユピテルメア「知れたこと……ちょっとクソ兄貴をブチ殺しに……」
 まるでちょっとしたピクニックにでも行くような感じで答える星露(シンルー)。(全然そんな装備じゃないけど)
 これが本気だからタチが悪い。
奈美「奴がどこにいるのかわかっているのですか?」
星露(シンルー)「それは……わかりませんが……」
 ですが、咲魔(サイタマ)の掟は絶対!咲魔(サイタマ)を裏切ったあのクソ兄貴は必ず殺さねばならぬ!と力説する星露(シンルー)。
奈美「なるほど……ですが、今のあなたはGB夫人(ミセスグレートバシャール)の財産の一つであることを忘れてはいけませんよ?」
 しかし、奈美は星露(シンルー)に釘を刺す。更に、畳みかけるようにこう続ける。
奈美「それに、貴方にクソ兄貴様を殺すことができますか?」
星露(シンルー)「ぐっ……」
 そう、最大の懸念はそこにある。実力の問題。こればかりは覆せない
星露(シンルー)「……知らなかったの?忍びは死を前提に作戦を立てる生き物なのよ!」
 だが、彼女は既に覚悟完了していた。
奈美「そう……あくまで死にに行くというのね……ならば、私は貴方を殺してでもそれを止めるわ!」
※あれ?どっちにしても死んだぞ。
 一触即発のピリピリした空気の中、突如アラームが鳴る。
 それはヴァルカナの検出を知らせるアラームであった。
奈美「では行きましょう!ヴァルカナ争奪戦をかき乱しに!」
 さっきまでの緊迫した空気はどこへやら、お仕事の時間が始まる。全てはGB夫人(ミセスグレートバシャール)のために
 なお、クソ兄貴を殺すまで梃でも動かないと思われた星露(シンルー)だが、このヴァルカナを確保しにクソ兄貴がくるかも
しれないとわかっているので、特に文句を言わず出撃することになる。

#2
 そして、問題のクソ兄貴はというと……
 兵庫県某所、嘉曦渋寺(かぎじゅうじ)
慈円(じえん)「さて、どうしますか?」
 新たなるヴァルカナの出現。その情報はヴァルカナを手に入れんとする者達、すべてに共有される。
 そして、彼らの大願……異世界の神召喚ガチャのために、まだ誰の手にも渡っていないヴァルカナを確保するこ
とは大神の降真靈(こうしんりょう)にとって最優先重要課題であった。
 だから、先ほどの慈円(じえん)のセリフもそのヴァルカナをどうするかという意味ではなく、誰が出向くのかという意味
の問いかけであった。
弥如(びぎん)「場所はSアイランド……か……」
 Sアイランド。正式名称は硫黄島。小笠原諸島の南端近くにある島のことだ。
※いや、Sアイランドって竜宮島(Dアイランド)じゃないんだから……
 この島はWWUの時代には軍事拠点として利用され、日本が戦争に勝利するために極秘裏に新兵器の開発が行われ
ていたとされている。
 情報漏洩を恐れた当時の軍上層部はSアイランドで行われている研究についての一切の資料を廃棄したことと、
結局その新兵器が日の目を見ないまま終戦したこと、更に戦後のGHQの立ち入り検査でも特に何も見つからなかっ
たことなど、様々な要因が重なり合い、新兵器開発の事実はないものと判断された。
韻麗(いんれ)(しかし、今ヴァルカナの反応が出現したということは、Sアイランドで行われていた研究という
のは、もしかしたらヴァルカナに関係するモノなのかもしれない……)
慈円(じえん)(ただ、気になる点は、なぜ今になってヴァルカナの反応が出現したか……ですが……)
 まず考えられるのはヴァルカナリアクターの死。
 ヴァルカナリアクターからヴァルカナを奪い取れるのは同じヴァルカナリアクターのみだ。しかし、折角奪った
ヴァルカナを放置してその場を去るヴァルカナリアクターなどいるのだろうか?
慈円(じえん)(フッ、まぁ、それも、Sアイランドに出向いてみればわかる事ですが……)
弥如(びぎん)「俺が行こう……」
 皆が思案している中、弥如(びぎん)がぽつりと呟く。
慈円(じえん)「ふむ……」
 おそらく愚妹が来る。ならば、迎え撃つのが兄としての宿命(さだめ)。
 弥如(びぎん)もまた、星露(シンルー)の兄として何かを感じ取っているようであった。


続

前の話へ  戻る  次の話へ