Eighter -Scarlet Nocturne-
8ther 〜海底霊廟の影花嫁 C〜
#5
ここより先、真っ暗で何も見えないが、しかし、確かに何かがいる。
そんな気配だけは伝わってくる
梓與鷹「お前は、誰なんだ?」
*「知らずにこんなところまできたというのか?」
流石に今のは失言だったか……と内心ヒヤヒヤする與鷹(。
そんな與鷹(をよそに、総介は一歩前に出る
上(総介「そっち行ってもいいか?」
與鷹(「お、おい、総……」
*「よかろう……」
暫しの静寂の後、一言、そう告げられる
総介「フッ、許可も下りたことだ、謁見と行こうじゃないか」
與鷹(「謁見って……」
一同「なっ!?」
そして、その奥には、一人の女性がいた……いや、彼女はどこからどう見ても人魚である。
人魚のドレスコードとはコレ!とでも言わんばかりにホタテ貝の貝殻で作ったビキニ(だけ)を装着した女性が
そこにはいた。
総介「お前は根布照須(一家の首領、根布照須殄壊(で間違いないな?」
根布照須殄壊(「私のことを知っているのか……」
化野梶太郎(「ってぇことは、抗争に巻き込まれて死んだってのは嘘だったってワケだな!」
殄壊(「はぁ、そんなことになっておるのか……」
ちなみに、この殄壊(はもうかれこれ百何十年も生きた女傑である。
そして彼女の無茶苦茶な名前……それは根布照須(一家が不老長寿だからである。
普通の人間のように、早く死ねるようにという願い(いや、それ、よく考えなくても呪いだから……)を込めて
忌まわしき漢字を使われるようになったのだ。
殄壊(「ちぃとばかし人の姿を保てなくなったから、ここに引きこもっていただけなのだがのう……」
與鷹((いや、その変化を『ちっとばかし』で済ますのはどうかと思うが……)
殄壊(「で、瀬戸の花嫁たる私に何の用があるのだ?」
與鷹(「いや、瀬戸の花嫁って……」
確かに人魚で任侠だけど……
山咲(桜「ははぁ、根布照須(だけに瀬戸の花嫁というわけですね」
一同「いや、どういうこと?」
唐突に呟く桜に一同はぽかんとする。
総介「なるほどな……」
與鷹(「いや、総。納得してないで教えてほしいんだが……」
そんな中、総介は一人、納得する。
桜「エジプト神話において、ネフティスはセトの妹と呼ばれています」
一同「いや、花嫁ちゃうやん!」
一同、盛大な突っ込みであった。
※まぁ、神話の世界では近親婚はよくある話だし
#6
桜「もともと瀬戸内海とは瀬戸の内海……そして、そこに嫁ぐ瀬戸の花嫁は、瀬戸の正式な後継者と言っても過言
ではないでしょう」
與鷹(「そう……か?!……そうなのか?」
なんだかよく分からない理論であった。
つまり、根布照須(一家は瀬戸内海の妹を自称するトンでも集団だった……わけはないな。
與鷹((そんなことよりも、さっきの『人の姿を保てなくなった』って発現、聞き捨てならなすぎるんだけど)
なんでみんなサラっと流せてるのか、與鷹(にはそれが不思議でならなかった
※あまりに自然すぎて聞き逃しただけなのかもしれませんが
総介「さて、無駄話はこれくらいしにして単刀直入に用件を話そう……俺たちがここへきたのは、貴様の持つヴァ
ルカナを譲ってもらうためだ」
殄壊(「ばる、仮名ぁ!?」
梶太郎(「おうよ!隠すとためにならないぜぇ?」
與鷹(「それじゃこっちが悪人だよ」
頭を抱える與鷹(であった。
桜「ヴァルカナというのは透明なタロットカードのようなもので……」
殄壊(「なるほどのぉ……要するに千社札のようなモノか」
梶太郎(「なんだって、せん、じゃふ、だぁ!?」
與鷹(「なんだろう、この……ジェネレーションギャップみたいなナニカは!?」
まぁ、実際に百年ほど年齢の隔たりがあるわけですからね
殄壊(「ふむ……」
そして暫し考え込む殄壊(。
與鷹((あれ?ちょっと待て……)
與鷹(もふと、ある事を思い出す。
ヴァルカナリアクターはヴァルカナを奪われない限り不老不死となるが、ヴァルカナリアクターからヴァルカナ
を奪い去れるのは同じヴァルカナリアクターのみ。
百年の歳月を生きたお殄壊(さんはどう考えてもヴァルカナリアクターなのではないだろうか?
殄壊(「まぁ、よかろうて……」
與鷹(「えぇ!?」
そんなアッサリと……そう思いつつも與鷹(は先程の考え……悪い予感がぬぐえない。
お殄壊(さんがパンパンと手を叩くと、ズリズリズリと何か引きずるような音とともに、一人の半魚人が箱を持っ
てくる。
※引きずるような音は箱を引きずっているのではなく、半魚人だから陸を移動する際の移動音です
一同「そ、それはッ!」
紐で結ばれた漆塗りの箱……誰もが知る言葉で表現するならば、玉手箱。それが一行の目の前に差し出された
#7
梶太郎(「持って行ってもいいが、老衰する覚悟があるならってか?」
殄壊(「お前は浦島太郎の読みすぎじゃ」
スパっと切り捨てられる梶太郎(であった。
殄壊(「そんなに開けるのが怖いなら私が明けてやる」
と、玉手箱を開けると、あら不思議、ボワンと煙が立ち込めるではありませんか。
これはマジで老衰するんじゃ!?……なんて馬鹿な考えをしてみたが、煙が立ち上るだけで何も起こらなかった
いや、何の演出なの!?
そして、箱の中には透明なタロットカードが一つ。VIの数字と天空に矢を番えた天使、地上で二人の女性が一人
の男性にアプローチするような構図が描かれていた。
《恋人(》のヴァルカナであった。
與鷹(「でも、いいのか?」
殄壊(「コレがここにある限り、またお前や奴らみたいなのが襲ってくるのであろう?ならば、お前らに渡しておく
ほうがマシなだけだ!」
まぁ、何はともかく、ヴァルカナをゲットできたのでよしとすればいいのだろうか
と、言うわけで一行は海底霊廟を後にするのであった。
END
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