Eighter -Practical Era-
49ther 〜愛憎吹き荒ぶ暴嵐 B〜



#3
 ある日天四斗(あまよと)工業にやって来た鳴城院(なるじょういん)姉弟。姉を手土産にプロポーズしだすことにも驚きだが、弟しか眼中にな
いと思われていた心がOKするのは更なる驚きだった。
 生徒会室で話し合いがあってから豹変したのだが、一体、生徒会室で何があったのか!?

テ金括(しんかね・くくる)「……」
 目の前が真っ暗になった(くくる)は幽鬼のような足取りでとぼとぼと校内を徘徊していた。
 ただ徘徊するだけではなく、奇術部の部室から手錠を、科学部の部室からクロロホルムを、適当な教室からガム
テープを拝借して生徒会室へ向かっていた。
※一体何をするつもりなんだよ!

嚥口(えんく)燕「お姉様、生徒会室の中で一体何が?!」
 騒ぎを聞きつけて、風紀委員長も駆けつける。
鳴城院貴音(なるじょういん・たかね)「どうやら、お話しするしかないようね……」
鳴城院國廣(なるじょういん・くにひろ)「……これは、今から20年程前の話だ……」
 そして、語りだす國廣(くにひろ)。
 あるところにとても仲の良い二組の姉弟がいた。
 どちらの弟も、小さい頃は『大きくなったらお姉ちゃんと結婚する』と言っていたが、しかし、そんなことは出
来ないと知り絶望の淵に立たされてしまったという。
一同(いわゆる黒歴史って奴なんじゃ!?)
 だが、そんなある時、A家の姉とB家の弟、A家の弟とB家の姉が互いに結婚できるという事実を知った二組の姉弟
は大いに喜び、互いの姉を交換して結婚することにした。
一同(えぇ〜〜〜!?)
 A家の姉とB家の弟が結婚したら、A家の弟とB家は二親等になってしまって結婚できない……と思ってしまうのは
浅はかな考えだということだ。
※それ、親等の計算あってるの?
貴音(たかね)「両家の合同の結婚式はそれは盛大に催されたらしいわ」
一同「は、はぁ……」
 そうですか……としか言いようがない一行。
國廣(くにひろ)「そして、僕たちもそれに倣うべくここに来たんだ!」
楯木(てすりぎ)盾「クッ、そうか、全ては姉と結婚するためか……そう言われれば、納得せざるをえない!」
 まさか、そんな理由が!と涙ながらに納得しだす盾
一同「をい……」
國廣(くにひろ)「全ては、姉と結婚するために!」
(くくる)「意義あり!その結婚は間違っている!」
 と、そこへ(くくる)が推参、大声で叫び散らす
一同「(くくる)!?」
貴音(たかね)「B家の弟はA家の姉と、A家の弟はB家の姉と結婚できたというのに、どこに間違いがあるっていうの?」
(くくる)「そんなもの、姉であって姉ではない!」
盾「……確かに、言われてみれば、(くくる)の言もまた然り」
一同「おめぇ、どっちの味方だよ!」
 一同、魂のこもった突っ込みだった。
テ金(しんかね)心「はっはっはっは、ここは私の出番のようだな」
(くくる)「姉さん……」
 怒りとか絶望とかいろいろぐちゃぐちゃした眼で姉を見る(くくる)。

#5
心「20年近く前に互いの姉を交換して結婚した二組の姉弟は……その後どうなったと思う?」
國廣(くにひろ)貴音(たかね)「そんなの、決まっているじゃない!……二組の姉弟はいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめで
たし!」
心「ふむ」
 二人に聞いたつもりはなかったんだが……と思っていると(くくる)が叫ぶ
(くくる)「そんなもの、決まっている、離婚だ!」
心「そう、その二組は離婚して、再びナカのイイ姉弟に戻って今度こそ幸せに暮らしました。というのが後日談な
んだ!」
 さすが、私の弟だ!と鼻が高い心であった
國廣(くにひろ)「ちょ、ちょっと待て、そんな話は聞いたことがない!」
貴音(たかね)「出鱈目よ!」
 鳴城院(なるじょういん)姉弟はヒステリックにブルー……もとい、叫ぶ。
一同(ってか『ナカのイイ』ってニュアンス怪訝(おか)しくない?)
(くくる)「やっぱりな……」
國廣(くにひろ)「嘘だ!僕たちはそんな話信じないぞ!」
貴音(たかね)「そうよ、大体、あなたの言う話が正しいという根拠なんてどこにも……」
 その時、心は静かに問う
心「逆に聞くけど、君たちはその話をどこで誰から聞いたんだい?」
國廣(くにひろ)貴音(たかね)「え?……近所に住んでいる仲良し夫婦に聞いたが、それが何か?」
心「仲良し夫婦……なるほど」
國廣(くにひろ)「そんなことはどうだっていいだろ!」
貴音(たかね)「そうよ、肝心なことはあなたの……」
心「はっはっはっは、どうしてそんなことを知っているのかって?そんなことは簡単だよ、だってその二組の内の
片方はウチの親のことだからな」
一同「えぇええ〜〜〜!?」
 トンでもない発言に一同びっくり仰天。
(くくる)「そんな話初耳だ……」
心「うむ。我が家の秘密だからな」
 数年前に教えてもらったんだ!とドヤ顔の心。
 ちなみに、十数年程前まではもう一組の姉弟は隣に住んでいたが、離婚してからすぐ、その姉弟はどこかへ引っ
越していったのだという。
國廣(くにひろ)「ちょ、ちょっと待て……十数年程前?!」
貴音(たかね)「そ、それってもしかして……」
 今の話を聞いてもしや……と思う鳴城院(なるじょういん)姉弟。
(くくる)「アンタらの近所に住む仲の良い夫婦ってのは、おそらくもう一組の姉弟だったってわけか……」
一同「ずぅええええ!?」
 さらに衝撃の事実に騒然とする一行。
盾「ま、待ってくれ、仲良し夫婦ってのは偽りの姿、本当は仲良し姉弟だってのか!?」
一同「そこに食いつくか!?」
心「はっはっはっは、信じるか信じないかはあなた次第です」
一同「どこの都市伝説だよ!」

#4
心「だから……」
(くくる)「だとしても!」
 そんな話を聞かされても、納得できない!という感じの(くくる)だ。
心「う〜〜ん……仕方がないなぁ……」
 そうつぶやくと心はガシっと(くくる)の腕をつかむとそのまま生徒会室に閉じこもる
燕「お姉様!?」
心「ちょっと説得するから待ってて」
 そういわれれば待つのが燕である。

(くくる)「で?」
心「これから話すことは内緒だよ?」
 んふっとウィンクしだす心
心「さっき言ったように、ウチともう一組の姉弟が互いに姉を交換したのが20年位前の話」
(くくる)「それは聞いた」
心「離婚して引っ越していったのが十数年程前の話」
(くくる)「だから、それも聞いたっての!」
 しかし、肝心なのはここからだ。
心「さて、問題です。どうして結婚してから離婚するまで数年かかったのでしょう?」
(くくる)「え!?……それは……数年……た、確かに……何故だ!?」
 虚を突かれる(くくる)。
 確かに、それはそうだ……もし、件の二組の姉弟が今の(くくる)と同じ(?)気持ちであるならば、結婚してもすぐさ
ま離婚したはず。
 数年も夫婦生活が続くわけがない……それなのに、なぜ離婚するまで数年かかったのか!?
(くくる)(我慢できた!?……いや、そんなわけがあるはずがない!だとしたら、何故!?)
 考えても考えても答えが出てこない。
 こうなったら答えを教えてもらうしかない。幸いにも今は二人っきりだ。ならば、こういえばきっととろける様
なアヘ顔……ゲフンゲフン、弾けんばかりの笑顔で教えてくれることだろう
(くくる)「教えて、姉ちゃん!」
心「はふんッ!」
 (くくる)の読み通り、心はトロけるようなアヘ顔(アルカイックスマイル)を見せた。
 そして、答えてくれる。
心「……離婚してしばらくしてから出産したら相手は誰なんだ?ってなっちゃうだろ?」
(くくる)「はっ!?」
 その時、(くくる)は全てを悟った。この気持ち、正しく愛だ!
※姉という存在に、心奪われた(もの)だ!

 と、言うわけで(くくる)は心の婚約を認めることにしたのだ。
 ただし、全ては心の計算通りに動くために!


END

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