Eighter -Practical Era-
45ther 〜南全星(サザンオルステラ)萬物逆旅(エクサヴォヤージュ) C〜



#5
 急遽決まっ(てしまっ)た、サザンオルステラ表敬訪問。目的は脱獄した国家犯罪級の下着ドロの送検……はも
ののついでで、ユリア姫様と囁口聶(じょうこう・ささや)の関係を問いただす的なアレである。
 旅のしおりを電子化したはいいものの、PCを持ち歩いている人がいないため、結局紙出しすることとなったこの
旅行、果たして無事に終わるのか?
 サザンオルステラ、ツナミ留置所
品辛斬子(ぴんから・きりこ)「ここが、今まで脱獄者が一人もいなかったという伝説を誇っていた留置所だ」
 『誇っていた』という部分を力強く宣言する斬子(きりこ)
一同(いきなり過去の栄光に……)
バックギャモン・アインス「あぁ?なんだてめぇら?ここは部外者立ち入り禁止だ!」
 と、そこへキレ顔でやってくるのはツナミ留置所十戒の一人、バックギャモンである。
風見原莉暗(りおん)「我々は見学に来ただけだが……」
バックギャモン「留置所を見学する馬鹿がいるか、タコ!」
斬子(きりこ)「いいか、将来ここではないかもしれんが、お世話になることになる奴も出てくるかもしれない……だから今
留置所がどんな場所か見学しておくだぞ」
一同「そんな未来あってたまるか!」
 寧ろ反面教師的な意味合いにしてほしい
バックギャモン「巫山戯(ふざけ)てんじゃねぇぞ、てめぇら!」
一同「いや、巫山戯(ふざけ)てるのはあの二人だけで……」
バックギャモン「ああぁ?」
一同「すいません、なんでもないです」
 バックギャモンの気迫に気圧されて何も言えなくなる一行であった。
莉暗(りおん)「ここから脱獄したって奴を捕まえたのは我々なんだ……と言ったらどうする?」
バックギャモン「あぁ?!なんだと?」
 ギロリと先ほどよりも鋭い目つきで睨み付けるバックギャモン。
フュンフ・フソー「まぁ、そうかっかしなさんなって、国王陛下でもあるまいし」
 そこへやってくるのは同じくツナミ留置所十戒の一人、フュンフ・フソー
バックギャモン「あぁん!?」
 貴様も巫山戯(ふざけ)たことぬかしてんじゃねぇよ!とフュンフを睨み付けるバックギャモン。
フュンフ「だが、すまないな、どんなことがあろうと部外者は立ち入りを禁止しているんだ……」
バックギャモン「そうだ、わかったらとっとと帰れ!」
斬子(きりこ)「だが、立ち入り禁止と言われれば入りたくなるのが人情というものだ」
一同「それはアンタらだけだろうが!」
ウィンクル・ヘルナーガ「貴方たち、そこで何をしているの?」
 と、そこへやってくるのはツナミ留置所看守長のウィンクル獄長だ
バックギャモン「ウィンクル獄長……」
 ここにいる部外者が見学したいだの言い出して聞かないんです……と端的に説明するバックギャモン
ウィンクル「ふむ。なるほど、事情は分かった……しかし、見学はできん!」
斬子(きりこ)「そんな……」
莉暗(りおん)「何故ですか?」
ウィンクル「では教えてやろう。千丈の堤も蟻の一穴から……お前たちがたとえ無関係だとして、部外者を入れた
ことで、囚人に脱獄の手助けをするアイテムを人知れず渡してしまうこともあるかもしれない」
 それを未然に防ぐためにも部外者は立ち入り禁止なんだ!という
斬子(きりこ)「そうか……なら、仕方ないな……」
莉暗(りおん)「もし、どうしても見学したい場合は何か犯罪を起こせばいいぞ」
一同「しねぇよ!」 
 それ、帰ってこられないヤツじゃねぇか!と魂の叫びであった。

#6
 さて、ツナミ留置所の見学はできなかったが、それは今回の旅の目的ではない。
 一行はいよいよサザンオルステラの王城へと足を運ぶことになった。
 サザンオルステラ、王城
メイド「お待ちしておりました、ユリア様、それに天四斗(あまよと)工業のご一同様」
 城の前にはメイドと執事がズラリと並んでお出迎え。
 そして、モノクルをかけたメイド長がカツカツと歩み寄る。
樫木堅(かしぎ・けん)「すげぇ!」
成小路金厭(かねあき)「うちだって負けちゃいられないぜ!」
一同「いや、何張りあってんだよ!」
メイド「皇后陛下が奥でお待ちです」
斬子(きりこ)「うむ、いよいよだな!」
莉暗(りおん)「褒賞がもらえる時……」
一同「それしか頭にないんか!」
 本当にこの二人は……
 そんなウキウキ気分の二人とは対照的にさっきから恐怖で冷や汗が止まらない人物が一人。
 囁口聶(じょうこう・ささや)である。
ユリア・キドニー「大丈夫です。心配はいりません」
 ニコっと輝く笑顔でギュっと(ささや)の手を握りつつ優しく語り掛け蹴るユリア
ユリア「貴方の魂は、私が必ず守り通します」
一同(魂だけ!?)

 それはさておき、一行は謁見の間へ……
メイド「国王陛下、ユリア姫様をお連れしました」
*「うむ……」
 謁見の間……その玉座の前にはヴェールがかかっており、国王陛下、皇后陛下の顔はうっすらとシルエットが拝
見できるのみとなっていた。
メイド「皇后陛下、ユリア姫様の隣にいるヘンタイが我が国第二の国家反逆者でございます」
一同「いきなり国家反逆者になっとる!?」
 しかも、国王陛下ではなく、皇后に言いつける辺りが狙っているとしか言いようがない
*「そうか、その方が、わがサザンオルステラに侵略しようとした愚か者か」
囁口聶(じょうこう・ささや)「なっ、違っ……」
*「黙れ!小僧!御身の前であるぞ!」
(ささや)「ごはあ!?」
 突如謎の圧により地べたに押さえつけられる(ささや)。
 まるでナザリック地下大墳墓で不死者の王と謁見しているかのようなそんな感じである
※、いや、単にデ〇〇〇〇スに言葉を投げかけられて跪かざるを得ない状況になっているだけ……
メイド「どうか、あの愚か者に死を!」
メイド一行「死を!見るも無残な死を!」
一同(怖ッ!ここのメイド怖すぎるッ!)
 それは裏を返せばそれだけユリアが愛されているという証左でもあるのだが、愛が重い……重すぎるよ
*「お黙りなさい……」
 皇后陛下の一喝にしんと静まり返るメイド一行。
*「その方、名を名乗られよ」
(ささや)「あ、ふぁいっ……じょ、囁口聶(じょうこう・ささや)……です」
*「では、聞こう……その方にとってユリアは何だ?」
(ささや)「え?……そ、それは……」
 ここをどう答えるかによって今後の全てが決まる。
 生きるか死ぬか……誰も助けてなんてくれはしない……
 沈黙が続く中、ユリアはギュっと(ささや)の手を握り、にっこりと天使のように微笑んでくる。
(ささや)(あ、ああ……そ、そうか……)
 その時、(ささや)は自分が言うべきセリフがなんであるかわかった気がした。だから、こう告げた。
(ささや)「はい、私の……大切なお姉様です!」
*「で、あるか……ならば、これからもユリアを姉として慕うように」
(ささや)「はっ、あり難き幸せ」
 はは〜〜と平伏して喜びをかみしめる(ささや)。
*「では、下がってよいぞ」
一同「え!?これで終わり!?」

#7
斬子(きりこ)「いい話だな〜」
一同「どこが!」
莉暗(りおん)「これで私たちに報酬がもらえればもっといい話として締めくくられそうだな」
一同「アンタらはいつもそうだな!」
 それしか頭にないのかよ!と突っ込んでみると……
斬子(きりこ)莉暗(りおん)「失礼なことを言うな、お前ら」
 常に何か面白いことを起こせないか……と考えているぞ!と返してくる二人。
一同「……」
 いや、なんかもういいです……って思う一行であった。


END

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