Eighter -Practical Era-
42nder 〜物理科高の優等生 C〜



#5
 南の前に立ちふさがるのは川口第三高校の名人衆が一人、荒楠泥埜(あれっくす・でぃーの)……
楠木南(ってか、アバンギャルド流拳殺法って何?)
 聞いたこともない流派なんですけど……と心の中でひとりごち。
 そんな間にも泥埜(でぃーの)は鋲がついたレザーグローブを両手に嵌めると左手を前に突き出し、握った右手を引き絞る。
南(こ、これは……)
 その握り方、明らかに刀を握っているような感じ。そして、南はこの構えを知っていた。
 ……そう、エア逆牙〇である。
※マキャ〇リズムの魔〇だと思った人、残念でした。(何がだ!)
荒楠泥埜(あれっくす・でぃーの)「ちぇぇええ〜〜すとぉおおお〜〜〜〜ッ!」
 雄たけびと共に一気に間合いを詰める泥埜(でぃーの)。そのまままるで握った刀で突きを繰り出すような構えのまま拳を振
りぬく。
南「はっ」
 南もそんな迫る拳に木刀を叩き付ける
 バチィッ
 次の瞬間、木刀と拳がぶつかり火花が散る。
泥埜(でぃーの)「なっ、俺の魔弾剣を一目で?!」
 驚愕する泥埜(でぃーの)。そんな泥埜(でぃーの)を後目に南はすっかり興ざめしていた。
 先ほどの火花は泥埜(でぃーの)が右手に隠し持っていたスタンガンが炸裂しただけのもの。そう、この漢、掌にすっぽり納
まるスタンガンを隠し持ち、南を痺れさせようとしていたのだ。
 ズドンッ
泥埜(でぃーの)「げはっ!?」
 次の瞬間、南の木刀に気絶させられる泥埜(でぃーの)。
南「……はぁ、期待して損した……」
 ぼやきながら南は屋上への階段を上るのであった。

南「って、鍵かかってるし!」
 屋上へ続く扉の前まで来て、南が思わず叫ぶ。
 その扉には南京錠がかかっていた。
 あるいはこれを見て泥埜(でぃーの)は屋上へ行けず立ち往生していただけであり、そこへ南が追いついたということだった
のかもしれない……
南「ま、いいんだけど……」
 武芸百般なんでもこなす楠木家の南にしてみれば、木刀で南京錠を両断することなど容易い。
 南京錠を木刀で叩き斬ると南はそのまま屋上へと足を運ぶ
南「どうやらこの勝負、私たちの勝ちの様ね」
 ドアを開けた先、屋上にはGNと書かれたフラッグが一本風に(なび)いていた。そして、そんなGNフラッグ(意味が違
う……)を無事ゲットできた南は勝利を確信した……
 と、そのとき、ゾロゾロと川口第三高校の生徒が屋上へやってくる
南「少し遅かったわね……」
 フラッグはこの通り、既に私の手の内よと南。しかし、川口第三高校の生徒達は別段悔しがる素振りも見せない
それどころかニヤリと笑みを浮かべる始末。

#6
*「どうやらお前は休校戦のルールを理解できていないようだな」
南「……どういうことよ?」
*「説明されなかったの?休校戦はフラッグを奪い合う団体戦だ……って」
南「……え?……あ、まさか、そういう……?」
 確かに最初の頃の説明でそんなルールを聞いたことがあった
南「じゃ、どうやったら勝ちになるのよ!」
 思わず叫ぶ南。と、次の瞬間、校内放送が鳴り響く
音無无彩(なあや)「あぁ、それはですね、自分の指令本部にフラッグを持ち帰ったら決着です」
 すみません、重要な事言い忘れていたみたいですね……と謝罪も行うのだが、あんまり悪いとは思っていなさそ
うな雰囲気である。
*「更にお前たちは指令本部の設立場所をミスっている」
南「どういうことよ?」
*「簡単な話だ。お前はフラッグをゲットしたら本部へ戻るのに再び校舎を走り抜けて俺達とバトらなければなら
ない」
*「だが、俺たちは校舎の外、プールの女子更衣室に本部があるから、フラッグをそこめがけて投げつければいい
だけというお手軽さ」
 単なるエロ目的だけで女子更衣室を選んだわけではないってことね……と感心していると、いや、そこは純粋に
エロ目的で……と呆れて物も言えないような一言を続けてくる川口第三高校の生徒であった。
 と、言うか投げつけてハズレでもしたらどうするんですかね?
南「アンタら……」
 ちなみに、相手側にも女子はいるのだが、別に男子に対して白い目……ってわけではない。ということはこの女
子もまたえっちな目的で女子更衣室に賛同したということなのだろうか?
南「いいわ、かかってきなさい、全員ぶちのめして指令本部に帰る!」
*「フッ、先ほど荒楠泥埜(あれっくす・でぃーの)をノした様だが、奴は名人衆の中では一番の小物……最弱」
 ここにいる我らはあいつなんかとは段違いだ!とか口々に叫ぶ川口第三高校の生徒。
 そんなことを言う方が逆に小物なんじゃないか……というのはお約束です。
*「ここは私に任せてくれない?」
*「おお、ハンガク、行ってくれるか?」
 ハンガクと呼ばれた女生徒が薙刀を構えて歩み出る
ハンガク「任せなさい」
南「はん……がくぅ……?」
 板額御前……それは鎌倉時代初期らへんに活躍した女性武将の名前である。
 勿論彼女の本名がそうであるとは限らないが、そんな通称で呼ばれるからには腕に覚えのある女傑なのだろう。
*「フッ、お前も運がないな……彼女はスーパーの安売り弁当激戦区に舞い降りた女傑!」
*「狙った半額弁当は逃さないベントーの戦士!」
南「……」
 ものすごくアホらしくなってくる南であった。
 ま、ともかく、いざ尋常に勝負!と、言いかけた次の瞬間、きゅるるぅ〜と可愛らしい音がハンガクのお腹から
鳴る
ハンガク「……うぅ、お腹がすいて力がでないよぉ〜」
 パタリとその場に倒れこむハンガク。あまりに情けない決着に思わずズコっとずっこける川口第三高校の生徒一
行であった。
 まさか、戦う前から勝負がついていたなんて……

#7
无彩(なあや)「え〜、今回の休校戦、勝者は天四斗(あまよと)工業!」
 その後、名人衆なるおバカ集団をちぎっては投げ、ちぎっては投げで南無双を繰り広げた後、音楽室へと一気に
駆けこんで休校戦は幕を閉じることとなった。
ハンガク「次の休校戦ではこうはいきませんから!」
一同「いや、もう出ないから」
 こんなイベントもう沢山……そんなことを呟いた天四斗(あまよと)工業の一行に勝ち逃げなんて許さんと川口第三高校の生
徒はブーイング。
 だが、天四斗(あまよと)工業にしてみればそもそも、参加したくもないイベントに強制参加させられたようなものなので、
一回だけ経験すればもう、こりごりという状況なのだ。仕方あるまい。
南「……休校戦以外だったら、あるいは……」
ハンガク「いいわ、では、次は武術の休校戦と双璧をなす……」
一同「待て待て待て!」
 論文コンペとかもやりたくないですから!と思う天四斗(あまよと)工業一行であった。


END

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