Eighter -Midnight Howling-
25ther 〜とある封廟の禁渦フォビドゥンヴォーテクス B〜



#3
 五人目の人の姿を持つ場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)憂粋(うぃすい)タブレ……
 かんなを相手にお前では俺に勝てないと傲岸不遜に言い放つが、それは慢心ではない。なぜならば、タブレは相
手のどんな技も慢心させ、無力化する技を使えるからだ。
憂粋(うぃすい)タブレ「ぐっ、おのれ、人間(パーツ)風情が!」
 かんなの追撃によって派手に吹き飛ばされたタブレはなんとか持ちこたえ、かんなをギロリと睨み付ける。
タブレ「……いいでしょう、確かに《キツネザルの使徒》を甘く見ていたことは認めるのだ……」
 だが、それは僕の最初で最後の慢心。
 最早僕に慢心はない……残念だったね……お前はさっきの一撃で決着をつけるべきだった。
 叫びつつかんなめがけて突撃、祝福無き強いる義務(ノーブレス・オブリージュ)を突き出す
白拍子かんな「はっ」
 ギンッ
 迫る凶刃を神滅超越者(ラグナロクエクセル)で受け止めるかんな

元人交喙(いすか)「おいおい、あんな風に言われているけど大丈夫なのかよ……」
 ヤツの言う通り、さっきの一撃でケリをつけるべきだったのではないか……
(かみ)総介「フッ、そんなことでケリがついているならば、人の姿を持つ場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)など恐るるに足らんわ」
 だが、甘いな……とも総介は思う。斃せる時に斃しておく、それが傭兵の鉄則だ
※いや、この場に傭兵なんて一人もいないし……
 と、まぁ、外野の会話はこの辺にして、話はかんなとタブレの死合に戻ります。

 ガガガガガガガッ
 二人の死合は(しのぎ)を削る激しい鍔迫り合いへと移行していた。
 最も、タブレの使う武器は槍なので(しのぎ)なんてなさそうだけど……
 まぁ、それはともかく、ここで驚嘆すべきはかんなの技量である。
 槍を相手に互角の剣戟を繰り広げるかんな。それはつまり、両者の得物が同じであれば、かんなの方が上だと言
うことに他ならない。
タブレ「この程度か……人間(パーツ)」
かんな「まさか……この程度だと思われるなんて心外です」
タブレ「ほざけ!」
 力任せに祝福無き強いる義務(ノーブレス・オブリージュ)を振るうタブレ。かんなはタブレの槍の軌跡を読み切って跳び退き距離を置く
かんな「龍咬舞刃(りゅうこうぶじん)鳳鸞舞刃(ほうらんぶじん)!」
 応龍(おうりゅう)に変幻する光の龍と、平安を(もたら)す鳳凰の連撃。
タブレ「無駄なのだ、何度やっても結果は同じなのだぁ!転静曦禍(てんじょうぎか)!」
 迫る応龍(おうりゅう)と鳳凰を、薙ぎ払い、(おご)らせて無力化するタブレ。
タブレ「そろそろ終わりにするのだ、《キツネザルの使徒》!」
かんな「……そうですね、そろそろ幕引きにしましょう!」

#4
かんな「麟廻舞刃(りんねぶじん)!」
 その場で力強く踏み込み、同時に上段に構えていた神滅超越者(ラグナロクエクセル)を一気に振り下ろす。
 放たれた剣閃は麒麟の姿となりてタブレに襲い掛かる。
タブレ「転静曦禍(てんじょうぎか)」
 ズドオンンッ
タブレ「ぐがああああっ!」
一同「な、何だ?!」
 先ほどと同様、一見、間合いをミスったとしか思えない横薙ぎ……麒麟に掠りもしないその一撃はあらゆる技を
(おご)らせて無力化する……そのはずだった。
 だが、今回は違った……タブレが横薙ぎを放った次の瞬間、麒麟の威力が強まったような気がした。
 そして、麒麟が無力化されずにタブレに直撃。防御する必要がないと感じていたタブレは床に派手に叩きつけら
れたのだった。
タブレ「お、お前……お前、一体何をしやがった!」
 祝福無き強いる義務(ノーブレス・オブリージュ)を杖の代わりに起き上がるタブレ。
 満身創痍で足元が覚束無(おぼつかな)いタブレ……誰が見てもわかる。これは、勝負あった……と
かんな「慢心は身を亡ぼす……貴方が言った言葉です」
 神滅超越者(ラグナロクエクセル)を突きつけて、高らかに宣言するかんな
タブレ「巫山戯(ふざけ)るな!この僕が慢心するわけがないのだ!」
一同「……」
 その言葉が既に慢心である!……と傍から見ていた人ならば誰もがそう思うであろう……
 しかし、それはかんなが死合った相手が人間だった場合に限る。そして、タブレは人ではない。人の姿を持った
災厄の様なもの。
 だから、人の姿を持つ場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)が、慢心がないと言い放てば、事実そこに慢心はないのだろう。
※断定しないのかよ!
かんな「茜瑙哭(わたし)の誇りが、そう易々と(おご)らされてなるものですか!」
 かんなの背後に茜瑙哭(セドナ)の気配が、神氣が強く立ち上る。それはさながら後光の様
タブレ「お、お前……」
 タブレは悟った……なぜ、かんなが(おご)らせて無力化する転静曦禍(てんじょうぎか)を無効化したのか……いや、踏み台にしたのか
を……
 『誇り』と『(おご)り』……それはいわばプラスとマイナスのような関係。だが、しかし、その根底は同じ。
 麟廻舞刃(りんねぶじん)は信義を乗せた剣閃で具現化した麒麟を打ち出し、相手を叩き潰す奥義だ。信義とはつまり、誇りであ
る。
 他の技であれば(おご)りが生じて無力化されるのだが、麟廻舞刃(りんねぶじん)に鍵っては誇りが強化され先ほどの結果を生んだの
だった。それがタブレが直撃を受けて吹っ飛んだ真相。
 そして、それは慢心を持たないはずのタブレの、自身の領域外にある思い上がりだった。
タブレ「おのれぇ、《キツネザルの使徒》ッ!」
 憤怒の形相でかんなを睨み付けるタブレ。


続

前の話へ 戻る 次の話へ