Eighter -Midnight Howling-
9ther 〜姉の襲いかかる時 B〜



#3
 けいとイェル子……弟と姉……その信念(?)をかけて死合は始まった……
 けいがイェル子を呆気なく斃したかに思えたが、そんなことはなく、逆にけいがイェル子に呆気なく斃されるような
ことになるのだが……しかし、やはり、そんなことはなかった……
 果たして、この死合、一体どう決着つくのか
天然あましかイェル子「馬鹿な……」
 無傷で背後に立ち、欠伸を噛み殺すけいを見て驚愕するイェル子
 なんで……さっき、確実に……と言いかけたところでけいがぬけぬけと言い放つ
天然蛍あましか・けい「夢でも見たんじゃない?」
イェル子「有り得ないッ」
 そのままイェル子はギロリと枝理えりを見る
イェル子「枝理えりィッ」
天然枝理あましか・えり「私を疑うというのか?」
 私は何もやっていないぞ……と枝理えり
イェル子「巫山戯ふざけないで……あんな芸当が出来るのは、今、この場では私かアンタしかいないでしょうに!」
枝理えり「何を言っているんだ……もう一人いるだろう……父君の後継者……その最有力候補……」
 そのまま枝理えりけいを見る
イェル子「そんな……そんなことは……」
突込魁とつこみ・かい「な、何が……どうなって?」
 またしても、会話についていけないかいは一人唖然とするしかなかったのだった
イェル子「枝理えりィッ!」
枝理えり「分かっただろう……イェル……子……父君がアレを指名したわけが……」
イェル子「……夢間天鐘むげんてんしょう……それをアレが体得したっていうの?」
 どうでもいいが、けいをアレ扱いとは……けいって家族の中では結構嫌われ者なのか?
枝理えり「そういうことだ……だからこそ、父君は後継者として、指名した……」
イェル子「……有り得ないわ……あれを……あれは……だって……」
 だが、その次の言葉を言えない……言うことが出来ないイェル子……もどかしそうな表情のまま黙りこむ
枝理えり「私だって考えは同じだ……夢間天鐘むげんてんしょうは……一介の人間が扱える技ではない……」
 だが、しかし、けいはそれを使っている……これは紛れもない事実だ……と枝理えり
かい「……その……ムゲンテンショウって……」
 取り残されていたかいが会話に割り込んで素朴な疑問を投げつける……
枝理えり、イェル子「ッ!」
かい「え?何……?」
 説明できない……いや、してはいけない……そのため、何も語らない枝理えりとイェル子
けい「うん、夢間天鐘むげんてんしょうって言うのは、相手が攻撃を繰りだしたもの、全てを夢だと認識させる……奥義だよ」
 と、そんな折、けいが会話に入り込み疑問を解決
枝理えり、イェル子「……」
かい「……は?」
 けいの言っていることが理解できない……
 しかし、枝理えり、イェル子が黙っているということは、それが正しいということなのだろう……
 確かに、そんな技は一介の人間が扱えるような技ではない……イェル子、枝理えりが驚くのも無理なからぬ話ではあ
る……
かい「ってちょっと待ってよ……」
 だとすれば、それを使えるという枝理えり、イェル子というのは一体何者なのか……

#4
枝理えり「ごめんなさいね……」
 すっとかいの顔に手を翳す枝理えり
かい「え?……あ……Zzzzzz……」
 すると、途端に眠気が襲ってきて、かいはそのまま立ったまま寝て、盛大に後ろに倒れ込む。
 倒れ込んで頭を撃った衝撃でも起きないことから……睡魔は痛覚を凌駕することが窺える……というか、それよ
りも何よりも、そんな睡魔を見舞わせた枝理えりは一体何ものなのか?

けい「で、続けるの?」
 姉と姉……二人の会話が一段落するのを待ってけいがイェル子に問う
イェル子「……いや、やめておくわ……」
 夢間天鐘むげんてんしょうを使える者同士が死合えば死合は千日手になるのは明白……
 いや、それ以上に、イェル子はこれ以上死合っても、こちらが恥をさらすだけだということを悟り、負けを認め
たのだ……
枝理えり「……奇しくも正夢になったというわけか……」
イェル子「……枝理えりィ……言っておくけど私は負けたわけではないからね……」
枝理えり「……はいはい……」
 そういうことにしておきましょう……と枝理えりは心の中で呟くのであった……
 そして、イェル子はそのまま踵を返して去っていこうとする
けい「ん?どこに行くの?」
イェル子「……帰る……」
けい「ふぅん……そう……」
イェル子「見送りは要らんぞ……そもそも、不可能だ!」
けい「まぁ、いいや……また遊ぼうね……イェル子姉……いや、イェレーミル」
イェル子「ッ!」
 ばいば〜〜いと手を振るけいだったが、その言葉を聞いて顔色を変えざるを得なくなるイェル子……もとい、イェ
レーミル
イェル子「貴様……なぜ……」
けい「ん?何が?」
 きょとんとするけい
イェル子「何が……じゃない!……貴様……なぜ我が名を知っている?」
けい「え〜〜……夢で見たよ……」
イェル子「ふざけるな!」
枝理えり「……巫山戯ふざけてなどいない……イェル……これが、《Dの後継者》の実力と言うものだ……」
イェル子「クッ……」
 既にかいも眠りについているため、イェル子ではなく、イェレーミルの略称、イェルを使う枝理えり……いや、彼女は
エリィ……エリィという略称を持つ存在……
 だからこそ、イェル子は枝理えりのことを『枝理えりィ』と叫ぶように呼んでいたのだ……
イェル子「……だから、父君はコレを後継者に指名したというの?」
枝理えり「そういうことだな……」
イェル子「……」

 その後、イェル子は何も言わずにその場を去っていく……いや、何も言わずにその場から忽然と姿を消した……
と言った方が正しい。

けい「そっちも、また来てね……エリィウラ……」
枝理えり「……ああ……」
 そして、枝理えり……エリィウラもまた、その場を去る(正確にはその場から姿を消す)

#5
突込魁とつこみ・かい「……ん……あ、あれ?」
 暫くして、かいが目を覚ますと……そこにはけいしかいなかった
けい「目ぇ、覚めた?」
かい「へ?」
 言われて、起き上がり辺りを見渡すかい
かい「……お姉さんたちは?」
けい「姉……?なにそれ」
かい「いや、アンタの姉……」
けい「俺に姉はいないよ……ついでに、妹も、兄弟もいないよ……」
かい「え?」
 そんな馬鹿な……じゃあ……先ほどの枝理えりとイェル子とは一体……
けい「夢でも見たんじゃないの?」
かい「アンタじゃあるまいし!」

 ……枝理えりとイェル子……彼女たちは一体、何だったのか……


END

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