Eighter -Extra Voyage-
68ther 〜魔狼と悪虎の狂演 B〜



#3
 化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)……彼もまた與鷹(よたか)に恨みを持つ双虎拳(そうこけん)の使い手であった。
 そして、双虎拳(そうこけん)双狼拳(そうろうけん)裏奥義が交差する時、脱獄(物語)は始まる
※をい
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「はぁ……」
天宮裕(あまみや・ゆたか)「……」
 食事の後、意気消沈してトボトトと部屋に戻ってくる二人。
 食堂のカレンダーとTVを見て分かったのが、今日が九月の第二週の木曜日だったってことだからだ。
 つまり、次の脱獄のチャンスまで二週間もあるってことだ……この何もないような生活で二週間というのは辛い
……故に二人は意気消沈していたのだった。
梶太郎(かぢだろう)「だが、逆に考えよう……準備の期間が二週間ある!と」
(ゆたか)「お前は無駄に前向きだな……」
梶太郎(かぢだろう)「フッ、どんな時もネガポジシンキングってのが俺の良いところなんだぜ?」
(ゆたか)「……」
 それって、ポジティブシンキングの間違いじゃね?何だ?ネガポジシンキングって……前向きと後ろ向きを同時
に考えるのか?
 こいつ、やっぱバカだ……使えるのか?なんて心の中で思う(ゆたか)であった。

 さておき、あっという間に月日は流れ、今日は九月の第四週の火曜日……
*「明日は本土から物資が届く日だ……」
*「気を引き締めろよ!この日を狙って脱獄しようなんて馬鹿がいるからな!」
一同「はっ!」
 既に計画がバれていた……なんてことではない。物資が届く日にちが分かっているからこそ、それを逆手に取っ
て脱獄しようなんて馬鹿が今までにも無数にいたということだ……
*「特に新入り程脱獄したがるのが常だ!」
*「分かっております。あそこの見張りを厳重にしておきます!」
*「うむ、分かればよろしい。では、明日を乗り切るぞ、諸君」
一同「ハッ!」
 ビシっと敬礼を行い、看守たちは解散する。
※ちなみに余談だが、(ゆたか)は物資補給の日とか全然知らなかったので脱獄しようなんて思いもしなかったので当時、
 看守連中は肩透かしを食らったというが、それは今はどうでもいいですね。

梶太郎(かぢだろう)「よし、作戦結構だ!」
(ゆたか)「おうよ!」
 まずは邪魔な手錠や足かせを破壊する。
 双虎拳(そうこけん)双狼拳(そうろうけん)の使い手が二人そろっていれば、お互いにお互いの枷を破壊するのも容易い。
梶太郎(かぢだろう)「フッ、久しぶりに両手が自由になったぜ!」
 とかいいつつ何故か首をカキコキならす梶太郎(かぢだろう)。別に首に枷がはめられていたわけじゃないのだが……
梶太郎(かぢだろう)「じゃあ、派手に行くぜ!」
(ゆたか)「いや、そこは慎重に……」
 ズドゴオンンッ
 (ゆたか)の静止も遅く、派手に出入口を破壊する梶太郎(かぢだろう)。その光景に頭を抱える(ゆたか)だが、やってしまったものは仕方が
ない。

#4
*「やはり、脱獄すると考えるなら貴様だと思っていたぞ!」
*「止まれ!今ならドアの修理と刑期の延長と食事制限と風呂掃除とトイレ掃除と職員に対するマッサージと、え
ぇとそれから……とにかく、その程度で許してやるぞ!」
 いや、要求多すぎない?
梶太郎(かぢだろう)「教えてやるぜ車は急には止まれないんだよッ!」
 いや、お前は車じゃねぇだろ!
(ゆたか)「無駄口を叩いている暇はねぇぞ!」
梶太郎(かぢだろう)「フッ、どんな状態でも喋って舌を噛まないのも俺の特ちょ……痛っ、舌噛んだ……」
(ゆたか)「……」
 なんて馬鹿らしいんだ……などといいつつ、とりあえず二人は迫りくる看守をちぎっては投げ、船着き場へと急
ぐ。
※艦を改造して作った施設の船着き場ってなんだろう?なんて深く考えてはいけない
(ゆたか)「アレか!?」
 走っている先に、ついに物資補給の船を発見する二人
*「急げ!物資の積み下ろしを早くするんだ!」
*「はっ、見てください!脱獄しようとする馬鹿がこっちに迫ってきます」
*「な、何だって!?」
*「積み下ろしはまだ終わらんのか?」
*「無茶言わんでくださいよ……」
*「ぐぬ……」
 看守があたふたしている間に二人は補給物資が積まれていた艦に飛び乗る。
梶太郎(かぢだろう)「折角だ、俺も積み下ろしを手伝ってやるぜ!おらぁ!」
*「うわぁっ!?」
 積み荷と一緒に看守も艦から放り投げる梶太郎(かぢだろう)(ゆたか)「釣りはいらねぇ、()っときなッ!」
 ドゴンッ
*「あげへぇ?!」
 (ゆたか)も割とノリノリで積み下ろしという名の放り投げを手伝ってみる。
 積み荷を看守に叩きつけて看守の身動きを封じる。一石二鳥の手だ!
*「お、俺も乗せてくれぇ〜」
 そして、騒ぎに乗じて他の囚人も集まってくる。
(ゆたか)「残念だが、定員オーバーだ!おらよっと!」
*「ぐげへっ!?」
 しかし、二人だけが逃げのいればいいって考えた梶太郎(かぢだろう)(ゆたか)の二人は他に脱獄しようとしてくる囚人に対しても
容赦せず積み荷を投げつける。
梶太郎(かぢだろう)「これで、最後!」
 ズガンッ
*「ぐげっ」
(ゆたか)「積み下ろしは終わったぜ!とっとと出港だ!」
*「へい!」
 二人の言葉に何の疑問も持たずに、また、先ほどまでの騒ぎに対しても何の疑問も持たずに艦は水晶の騎士を離
れていく。
一同「あ、あぁ……」
 そんな船出を絶望的な眼差しで見守るしかない看守一行であった。
梶太郎(かぢだろう)「へっ、やったぜ!」
(ゆたか)「あぁ、だが、安心するのはまだ早い!」
 逃げ切るまでが脱獄だ!
 果たして、二人はこのまま逃げ切ることが出来るのだろうか?


続

前の話へ 戻る 次の話へ