Eighter -Blindness Wizard-
26ther 〜遺体なき殺人と罪 A〜



#0
 これはとある殺人事件の顛末を綴った物語である。
 そして、この殺人事件には場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)七罪塔(しちざいとう)が関与していた。
 つまり、シレントワイザードとEighterとの激闘の記録ということにもなる。

#1
 事の起こりは今より数年前に遡る。
 大阪、某所
*「あの邪魔な男……どこかで死んでくれないかしら……」
 いきなり物騒なことを言いだす彼女の名は尹楠娜(い・なんな)。
 そして、死んでほしいと願う相手はこともあろうに夫の萄鵡路(どぅ・むじ)さんである。
 萄鵡路(どぅ・むじ)さんは牧羊家の家系に生まれた御仁で、尹楠娜(い・なんな)とは幼馴染であった。
 周りで次々と結婚していくクラスメイトを見て焦った二人がやむなく結婚したという事情があるため、夫婦仲は
冷めており、結婚初夜で早くも結婚を後悔したという逸話も残っている位だ。
※それでも離婚しなかったのは世間体を気にしてのことだそうです。
 結婚してから無為な時間を過ごしていたある時、彼女に転機が訪れた。運命の漢との出会いである。
 そんな彼の名は吾栖喇(あ・すら)。株式会社センサスの若き社長であり、ライバル会社であるラティオテクノロジーを吸収
合併しようと目論む野心家であった。
 運命の出会いというのは凄まじく、衝撃的であり、尹楠娜(い・なんな)は彼の為なら世界を敵に回したってもかまわないと言
う覚悟を決め、彼に自分の有能さをアピールするためには手段を選ばなかった。
 そして、彼に見初められ玉の輿生活を歩もうとした矢先に問題が発生したのだ。
 いや、ここまでくればわかるが、今の夫のことである。
 萄鵡路(どぅ・むじ)と言う漢は無駄に頑丈で今まで病気という病気をしたことがない。殺しても死なないを地で行くような豪
傑だったのだ。
 吾栖喇(あ・すら)との輝かしい生活のためには萄鵡路(どぅ・むじ)の死は必至……しかし、殺しても死なない漢をどう殺せばいいのか、
彼女はずっと悩んでいた。
*「だったら。力を貸すというのも吝かじゃないらしいね」
尹楠娜(い・なんな)「なっ、誰!?」
 その時、彼女に救いの手を差し伸べる謎の存在……それは言わずもがな場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)、中位存在。泥諏(でぃす)クォ
ヴァだ。
尹楠娜(い・なんな)「子供?!」
 普通ならガキが何の役に……と思うところだが、目の前のコレは明らかに子供ではなく、というか、そもそも人
間とは思えず、そして、彼女は悪魔に魂を売り渡したのだった。

#2
 そして、今、尹楠娜(い・なんな)は株式会社センサスにて吾栖喇(あ・すら)の秘書としての地位を確立、優雅な生活を送っている。
 大阪府、株式会社センサス
吾栖喇(あ・すら)「ラティオテクノロジーも存外粘るな……」
 数年前からずっとライバル会社を蹴落として吸収合併しようと暗躍してきたが未だその野望は叶わず……
 吾栖喇(あ・すら)は本社ビルの会議室にて何度目だかわからない作戦会議を行っていた。
 参加者は吾栖喇(あ・すら)尹楠娜(い・なんな)、そして、吾栖喇(あ・すら)の懐刀として名高いデュランダル・ギランバレートの三人である。
デュランダル・ギランバレート「やはり、このヒプノス・カイミンをどうにかしない限りラティオテクノロジーを
落とすことは出来なさそうですな……」
吾栖喇(あ・すら)「あぁ、ここ数年、何度も奴を失脚に追い込もうとしたが、失敗に終わった……」
尹楠娜(い・なんな)「彼の背後にある軍師、オリフィー・エルノアを先に叩かないと駄目なのでしょうね……」
デュランダル「やはりそう思うか……」
 何度も失敗したんだからいい加減学習しろよ!と言いたくもなってくるが、まぁ、そこはおいといて……
 あいにく株式会社センサスには軍師の肩書を持つ人材はいなかった。
※てか、普通、社員の中に軍師って肩書の人材います!?
尹楠娜(い・なんな)(こうなったら暗殺するしかないかしら……)
 吾栖喇(あ・すら)を盲目的に狂信的に愛している尹楠娜(い・なんな)の考えが恐ろしいというか、異常すぎる。
尹楠娜(い・なんな)「私が何とかして見せます!」
吾栖喇(あ・すら)「おいおい、何とかって……」
尹楠娜(い・なんな)「大丈夫です。私を信じて待っていてください!」
吾栖喇(あ・すら)「いや……」
 だが、こうやって今まで何度も点数稼ぎをして、今の地位にある尹楠娜(い・なんな)の強気発言を、吾栖喇(あ・すら)は止めることがで
きなかった。
吾栖喇(あ・すら)「そ、そこまで言うのならば……任せるぞ……」
尹楠娜(い・なんな)「はい!任されました!」
 こうして、その日の会議は終わった。

 そして、帰宅後
*「やぁ、待っていたよ」
尹楠娜(い・なんな)「なっ、何者!?」
 家に帰ると謎の声と、身の毛のよだつ悍ましい気配……それは、数年前にも感じたアレと似ている……いや、ア
レとは比べ物にならないほど凄まじい。
*「警戒しなくてもいいよ」
 いや、こんな恐ろしい気配を垂れ流す相手に警戒するなって方が間違っているんですが……
 ともかく、彼女の前に現れたのはもはや、言うまでもないと思いますが、七罪塔(しちざいとう)です。


続

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