Eighter -Blindness Wizard-
25ther 〜魔拳と邪拳と王拳 C〜



#5
天宮裕(あまみや・ゆたか)「死ねッ!滅狼凍河塵(めつろうとうがじん)ッ!」
 いきなりクライマックスな(ゆたか)は、最初から全力全壊で與鷹(よたか)をブチ殺しにかかる。
※いや、全力全壊ってお前……
 当然と言えば当然だが、あまりにも急ぎすぎな感じもある。
梓與鷹(よたか)神狼九断(しんろうくだん)翳噛(えいごう)!」
 ドガガガガガガガガガッ
 冷気を纏った黒い拳打と九つプラス九つの拳打が激突。
 いきなりの大盤振る舞いだが、これはまだほんの小手調べに過ぎないのだ
(ゆたか)「どうしたッ!與鷹(よたか)ッ!貴様の力はこの程度かッ!」
與鷹(よたか)(前よりも強くなっている?)
 今の(ゆたか)を突き動かしているのは與鷹(よたか)への憎しみ。
 油断しているわけではないつもりの與鷹(よたか)だったが、一瞬でも気を抜けば、殺されかねない。
與鷹(よたか)(しかし、憎しみのまま拳を振るうのは、やはり、間違っている)
 間違っていることを認めさせるためにも、與鷹(よたか)はこの死合、負けるわけにはいかないのだ。
(ゆたか)(行ける!俺はまだ強くなれる!)
ウェル(あ〜、うん。そね……)
(ゆたか)「行くぜぇッ!與鷹(よたか)ッ!途中で死ぬんじゃねぇぞッ!」
 ガッ
 叫ぶと同時に天高くジャンプする(ゆたか)
(ゆたか)「死ねぇッ!虐狼魔覇(ぎゃくろうまは)故窮屠主(コキュートス)ッ!」
 ズドオオンッ
 重力加速をつけて一気に下降する(ゆたか)、その脚には氷で出来た刃を纏っていた。
※死ぬんじゃねぇぞって言っておきながら直後に死ねって叫ぶのはどうなのか……
與鷹(よたか)穹狼極樹(きゅうろうきょくじゅ)ッ!」
 ゴドッ
 対する與鷹(よたか)は魔術で強化した拳によるアッパーで迎え撃つ。
 激突する脚と腕……
與鷹(よたか)「おおおおっ!」
(ゆたか)「はああっ!」
 しかし、重力加速をつけて降下してきた(ゆたか)與鷹(よたか)のアッパーで上空に打ち上げられる。
(ゆたか)(何ぃ!?)
 そのまま與鷹(よたか)(ゆたか)を追い越して、降下と同時に肘鉄を食らわす。
 ガッ
(ゆたか)「ぬぐうっ……」
 腕を交差させて肘鉄をガードする(ゆたか)。
 そして、両者は地面へと激突する。
※いや、與鷹(よたか)は着地だけど……
(ゆたか)「調子にのるなぁッ與鷹(よたか)ぁあああああッ!」
 ズゴオオオオッ
與鷹(よたか)「くっ……」
 (ゆたか)を抑え込んでいた與鷹(よたか)だったが、迸る邪悪な気から思わず距離をとる。

#6
(ゆたか)「今度こそ死ねぃ!戮狼戴天(ろくろうたいてん)鈍流斃無(ニブルヘイム)ッ」
 ゴガアッ
 拳に氷でできたウルフヘッドを纏い、與鷹(よたか)に襲い掛かる(ゆたか)與鷹(よたか)窿狼遍厳(りゅうろうへんげん)ッ」
 そんな(ゆたか)に対して與鷹(よたか)は手刀をもってして十字に薙ぎ払う。
 氷でできたウルフヘッドが與鷹(よたか)に噛み付きにかかるも、與鷹(よたか)は十字に薙ぎ払った手刀をもってしてそれを打ち砕
く。
與鷹(よたか)「終わりだッ!」
(ゆたか)「マズイッ!」
 更に與鷹(よたか)の攻撃はそれだけにとどまらない。(ゆたか)を掴んで引き寄せると同時に蹴りを放つ
(ゆたか)「ガハアアッ!?」
與鷹(よたか)「……」
 蹴り飛ばされ、地面に激突する(ゆたか)。
 完全に決まったかに思えたが、與鷹(よたか)はまだ臨戦態勢を続けていた。
 そのまましばらく時間が過ぎると、(ゆたか)が獰猛な笑みとともに立ち上がる。
(ゆたか)「チッ、油断して近づいても来ないか……」
與鷹(よたか)「手応えがおかしかったからな……」
 蹴りを受ける直前、(ゆたか)は氷の壁で相殺し、致命的なダメージを防いだのだ。
 倒したと思い込んで近づいてきたところで逆襲しようと思っていたが、その策は不発に終わってしまった。
與鷹(よたか)「まだやるのか……?」
(ゆたか)「当然よ!言ったはずだ!俺は貴様を殺すまで一歩たりとも前に進めないってなぁッ!」
 直撃を回避できたとは言え、無傷とは言い難いはずの(ゆたか)。
 だが、まだ死合を続けるという。
與鷹(よたか)(はぁ……つくづく厄介な相手に絡まれたもんだ……)
 その執念に與鷹(よたか)は呆れるしかない。
 もし、ここに総介がいたら、殺すことが愛とかそんなことを言いだすに違いない
※いや、『倒すことが愛』じゃないんだから……
與鷹(よたか)(……これも俺の甘さか……)
テノ(だる、だる)
 ぶんぶんと首を左右に振っているかのような感じのテノ。
與鷹(よたか)(そうか……)
 気休めかもしれないが、多少は気持ちが和らいだ與鷹(よたか)であった。
 そして、気を引き締めてググっと拳を握りしめる與鷹(よたか)與鷹(よたか)「……いいだろう、(ゆたか)……終わりにしてやろう!」
(ゆたか)「一つだけ言っておく、俺は天宮裕(あまみや・ゆたか)などではないッ!……シレントワイザードのウディンだッ!」
 あ、そこは譲れないんですね……
 ってか、お前はどこからどう見ても天宮裕(あまみや・ゆたか)であり、シレントワイザードのウディンだから!

#7
(ゆたか)「砕け散れぇええッ!斃狼氷翳殺(へいろうひょうえいさつ)ッ!」
 自らを氷で包み込み、巨大な氷狼となりて與鷹(よたか)に激突する(ゆたか)與鷹(よたか)神狼九断(しんろうくだん)来護重(らいごうえ)ッ!」
 ズドンンッ
 バキバキバキッ
(ゆたか)「な、何ぃ!?」
 九つの拳打を一つに束ねて一点突破。與鷹(よたか)の拳が氷狼を打ち砕いていく。
(ゆたか)「だが、甘ッ……ごふぅ?!」
 例え外側を覆う氷が砕かれようとも、まだ(ゆたか)本体は健在。ここからが華麗なカウンターの見せ所と思っていた(ゆたか)
だったが、與鷹(よたか)の拳打はこれまでとは違って甘くはなかった。
※いや、別に今までが甘かったわけじゃないけど……
 今度こそ直撃を食らい(ゆたか)の意識はそこで途切れるのであった。
與鷹(よたか)「じゃあな、(ゆたか)……」
 勝負はつき、與鷹(よたか)はその場を後にするのであった。

(ゆたか)「はっ!?」
 その後、(ゆたか)は気が付くとシレントワイザード本部の医務室の中で目を覚ました。
ロズエリク「気づいたか……」
(ゆたか)「負けた……この、俺が!?」
ウェル「あ〜、うん。そね……」
 この一件で(ゆたか)の心が折れてくれればいいのだが、果たして、そうなったのかどうかは神のみぞ知る……


END

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