Eighter -Blindness Wizard-
25ther 〜魔拳と邪拳と王拳 A〜



#0
 天宮裕(あまみや・ゆたか)、魔術師としての名前はウディン。
 いつのころからか與鷹(よたか)を殺すことを至上の目的として生きる外道となり果てた漢である。
 魔術師としての力を得て一度は與鷹(よたか)を追い詰めるものの、與鷹(よたか)もまた魔術師として覚醒し返り討ちにあった。
 これは、そんな復讐に生きるバカヤロウの物語である
※酷い言い草……

#1
 山梨県、富士青木ヶ原樹海某所、シレントワイザードの本部
天宮裕(あまみや・ゆたか)「クソがッ!クソがッ!クソがッ!」
 ズドンッドガンッ
 先日剱岳で與鷹(よたか)に敗北してからというものの、(ゆたか)のイラつきぶりはウェステリアを超える位の程となっていた。
 苛立ちを部屋の家具にぶつけているせいで、その部屋は見るも無残な状態になっていた。
 こんな状態であるから、触らぬ神に祟りなしとして、誰も近づくことがないのだが、ロズエリクは敢えてその場
へ足を踏み入れた。
ロズエリク「いつにもまして不機嫌だな……」
(ゆたか)「当然だろうがッ!」
 折角與鷹(よたか)を殺せる力を手に入れたというのに、奴もまた同じような力を手に入れた。しかも奴の方が上手と見え
た。
 これは(ゆたか)の神経を逆なでするには十分すぎた。
ロズエリク「ディエクーラウ・アズルサの末裔か……」
 まさかまだそんな逸材が眠っていたとは驚きだ……と言いつつも、全然驚いているようには見えないロズエリク
(ゆたか)「おい!貴様ッ!今よりももっと強くなる方法はないのかよ!」
 怒りに任せてロズエリクに詰め寄る(ゆたか)。
 恐れを知らないにも程がある。
 どうしてこんなに歪んでしまったのか……それはやはり、與鷹(よたか)のせいなのか?
※いや、流石に與鷹(よたか)のせいにするのは酷いのでは?
ロズエリク「まぁ、探しては見るが、あまり期待するなよ」
 実はロズエリクには一つ、手っ取り早く強くなる方法に心当たりがあったのだが、しかし、それを伝えるには時
期尚早だと判断した。
(ゆたか)「チッ、使えねぇ……」
 暴言にも程があるな……
 もし、呪装四天王がこんな態度をとったら不敬罪で殺されていたかもしれない。
 (ゆたか)の扱いが特別過ぎるというか、異常な気がするが、果たして、そこにはどんな意図があるのだろうか?
※いや、もしかしたら何も考えてないのかもしれないし、統制下におくことを諦めているのかもしれないし……

#2
エランドラ「ガッハハハハハ!荒れてんなぁ……」
(ゆたか)「あぁ?!」
 ギロリと血走った目でエランドラを睨む(ゆたか)。
 しかし、エランドラにとってはどこ吹く風だ。
※二人とも、どこか頭のネジが外れているからなのかもしれないが……
フキエル「いやいやいや、エランドラ様、どう考えてもヤバイですよこれ……」
 先ほど、この場に近づくような愚か者はいないと言ったが、例外があった。
 戦闘バカのエランドラである。
(ゆたか)「てめぇ、何しにきやがった?」
エランドラ「何、相手でもしてやろうかと思ってな……フキエルが」
フキエル「ちょ、初耳過ぎんですけどッ!」
 ってか、普通はそこは言い出しっぺが相手になるモノでは!?
(ゆたか)「あぁ?相手だぁ?」
エランドラ「一人で強くなるには限度ってモンがあるだろ?」
 だが、エランドラの言うことも一理ある。
(ゆたか)「いいだろう、殺すつもりでやるからかかってこいや!」
フキエル「え、えぇ〜、マジですか!?」
エランドラ「安心しろ、骨は拾ってやる」
フキエル「死ぬこと前提!?」
(ゆたか)「ウェルッ!我が元に帰れ(ヴォレーゲン)!」
ウェル「あ〜、うん。そね……」
(ゆたか)「凍てつく無貌の闇に包まれし黒き魔星、その御力、我が拳となりてここに顕現せよ、ヤークシュ!」
 魔導書の力を身に纏い、召喚呪術で拳を強化する(ゆたか)
 相手がやる気十分で今にも襲い掛かってきそうならば、もはや是非もない。覚悟を決めてフキエルも模擬戦闘に
臨む
フキエル「あ〜、もう……ナナ!我が元に帰れ(ヴォレーゲン)!」
ナナ「準備はできているで、あります!」
フキエル「無限の知識を蓄えし昴なる流水の魔星、その御力、我が剣となりてここに顕現せよ、セラエノ!」
 フキエルもやけくそ気味で魔形刀(マナヒョンド)を構えて召喚呪術で水の刃を作り出す。
フキエル「穿ち抜く水杭(ヴァッサァ・ボーヘン)」
 ザバッ
(ゆたか)滅狼凍河塵(めつろうとうがじん)!」
 ゴギャギギギギンッ
フキエル「なっ、ガハアッ!?」
 地面より突出する水の杭で(ゆたか)を貫き潰そうとしたフキエルだったが、(ゆたか)の冷気を纏った黒い気の拳の前に瞬殺さ
れる。
(ゆたか)「てめぇ、巫山戯てんのか!殺す気でかかってこいと言っただろうがッ!」
 あまりに呆気ない幕引きであった。


続

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