Eighter -Blindness Wizard-
5ther 〜彼女は黄泉へ赴く A〜



#0
 これは虐げられし一人の少女の物語……彼女の名前は弑野阿朱子(しいの・あしゅこ)。
 なぜ彼女は虐げられたのか、そして、彼女はその果てに何を選んだのか……

#1
 山梨県某所、弑野(しいの)弑野阿朱子(しいの・あしゅこ)「うぅ……うぅ……どうして、どうして私だけなのよ〜〜〜ッ!」
 部屋の中で布団にくるまり泣き続ける彼女。結彷徨(おちなし)中学に通う彼女はそこで、陰湿なイジメにあっていた。
 なぜ、どうして彼女がいじめられるようになったのかそれは誰も知らない。ある日突然、青天の霹靂としか言え
ない程に、それは始まった。
 余談だが、『結彷徨』と書いて『おちなし』とは変わった読みだが、これは『小鳥遊』と書いて『たかなし』や
『月見里』と書いて『やまなし』みたいなもので"(オチ)"が"彷徨(行方不明)"で『おちなし』なのだ。
阿朱子(あしゅこ)「死にたい……」
 泣き疲れた彼女はゆらりと立ち上がるとそのままふらふらと幽鬼の様に歩き出し、自分の机の引き出しの中か
ら睡眠薬を取り出すと一気にそれを頬張るのであった。
 かくて、彼女の意識はブラックアウトする……

*「……しゅこ……あしゅこ……阿朱子(あしゅこ)……」
 誰かが自分を呼ぶ声がする。この声は……お母さん?
 ぱちりと彼女が目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。ここは忌那支(いみなし)総合病院の一室だ
阿朱子(あしゅこ)「なっ!?」
*「よかった、目を覚ましたのね……すぐ、お医者さんを呼んでくるから、待っているのよ」
 母、嗚露那(おろな)の声に愕然とする阿朱子(あしゅこ)。死を選んだはずなのに、死に損なってしまうなどと……
医者「まぁ、ビタミン剤を大量に摂取しただけなので別に生命に別条はないのですが……」
弑野嗚露那(しいの・おろな)「よ、よかったぁ」
 ほっと一安心する母とは裏腹に娘は愕然としていた。
阿朱子(あしゅこ)(そ、そんなっ!)
 だが、うっかりしていた、医者がビタミン剤を睡眠薬と称して提供する……よくある話だ。
医者「え〜、それよりも、どうしてこんなことをするに至ったか、そちらの方が重要でして……」
嗚露那(おろな)「はっ、そうよ、どうしてこんな馬鹿なことをしたの!」
阿朱子(あしゅこ)「どうして、ですって!?巫山戯(ふざけ)ないで!」
 血相を変えて叫び散らす阿朱子(あしゅこ)
阿朱子(あしゅこ)「私なんてどうせ要らない子なんだから、死んだ方がマシなのよ!どうして死なせてくれなかったのよ!」
嗚露那(おろな)阿朱子(あしゅこ)……」
 絶句する母だが、娘を励まそうとこんなことを続ける
嗚露那(おろな)「いい、阿朱子(あしゅこ)、たとえ今が苦しくったって生きていれば必ずいいことがあるのよ!」
阿朱子(あしゅこ)「出て行って!今すぐ全員、ここから出て行って!」
 『生きていれば必ずいいことがある』……それは死を選択した存在(もの)にとって絶対に言ってはならない台詞だった。
 怒りに身を任せ枕を手に取ってぶん投げる阿朱子(あしゅこ)。
医者「い、今は一人にさせましょう……」
 医者もこりゃかなわんと母親を引き連れ病室を後にするのであった。

#2
阿朱子(あしゅこ)「生きていたって、何もいいことがない……私の人生に意味なんてなかった……死にたい……死にたい……
でも、自分で死ねないのなら、殺してほしいッ!」
 一人残された彼女は、そんなことをぽつりと漏らす。
*「だったら、その願い、叶えてあげようじゃないか」
 そんな彼女の魂の叫びに、答える声があった。
阿朱子(あしゅこ)「だっ、誰!?」
 気が付くと、病室の窓辺に一人の子供がちょこんと座っていた。
 一体いつの間に、どうやってこの病室縊入って来たのか……
*「君が死にたいというのならば、その願いを僕が叶えてあげよう……」
 それは、人の姿をとった場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)、その上位存在。七罪塔(しちざいとう)がひとつ、ゴールことベルフェゴールだ。
阿朱子(あしゅこ)「貴方、どこから?」
ベルフェゴール「そんなことは些細なことでしょ?」
 僕は君の願いを叶えるためにやって来た……そう、僕は君にとっての、死神。
阿朱子(あしゅこ)(死神……)
 この世に神様がいるだなんて信じていない彼女だが、自分を殺してくれるならば、この際なんだっていい。
阿朱子(あしゅこ)「いいわ、私を殺して!今すぐ!!」
ベルフェゴール「まぁ、慌てないでよ。物事には順序というものがある」
阿朱子(あしゅこ)「順序?」
 契約書にサインするとか、費用はどうのとか、計画はこうだとかそんなことを詰めるってことかしら?と考えて
見る阿朱子(あしゅこ)。
ベルフェゴール「そうだよ。僕は君を殺してあげる……これは決定事項だ!」
 けれども、君は本当にそれでいいのかい?と、問いかけてくるゴール。
阿朱子(あしゅこ)「そ、それは……」
 陰湿なイジメにあっていたからこそ、死にたくなった彼女だが、ただ、死ぬだけなんてなんか負けた気がする。
 できるならば、自分をイジメていた相手に復讐をしたい。
阿朱子(あしゅこ)(そうよ、このまま何もせず死ぬだなんて、馬鹿らしい……)
 ふつふつとどす黒い感情が彼女の中を駆け巡る。
 イジメグループの主犯格、それを傍観していた奴ら全員に等しく鉄槌を下したい。
阿朱子(あしゅこ)「……できるの?」
 だけど、そんなことは本当にできるのだろうか?
ベルフェゴール「僕ならばできるよ……」
 悪魔に魂を売り渡すとはこんな気分なんだろう……と阿朱子(あしゅこ)は思った。


続

前の話へ 戻る 次の話へ