Eighter -Scarlet Nocturne-
45ther 〜宿命逆巻く影埼玉(ネオサイタマ) C〜



#5
 ダイナマイト漁というモノがある。
 水中での爆発は地上での爆発より威力が高くなるのだ。つまり、水中で爆発を巻き起こすことで魚介類に多大な
ダメージを食らわせ、水面に浮かんでくるエモノを確保するのがダイナマイト漁の大雑把な説明である。
 そして、そんな水中での爆発の威力が凄まじいということを利用したのが咲魔(サイタマ)流忍術、水天である。
※なお、実際にはダイナマイト漁は禁止されてます。與鷹(よたか)「かっ、梶太郎(かぢだろう)!?」
 思わず渡瀬游彗(わたらせ・ゆうすい)との死合そっちのけで梶太郎(かぢだろう)の心配をする與鷹(よたか)(かみ)総介「チッ」
 そんな隙に與鷹(よたか)に襲い掛かる游彗(ゆうすい)を総介が止める。無論、総介はそれとは別に五羅恢翫(いづら・かいがん)も止めているわけで実は
少し忙しい。
総介「フッ、奴は殺しても死なないような奴だ」
與鷹(よたか)「あ、あぁ……うん」
 梶太郎(かぢだろう)のことを何一つ心配していない総介に内心ドン引きな與鷹(よたか)であった。
 ザバアッ
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「ぶはぁっ、しっ、死ぬかと思った!」
 本当に大丈夫なんだろうな?と與鷹(よたか)梶太郎(かぢだろう)が沈んだ水面をのぞき込んでいると、何事もなかったかのように水
中から飛び出す梶太郎(かぢだろう)。
 総介が『ほらな?』とか言うも、結果論じゃねえかとジト目の與鷹(よたか)であった。
渡瀬游彗(わたらせ・ゆうすい)五羅恢翫(いづら・かいがん)「……」
 ドサリッバタリッ
 直後、游彗(ゆうすい)恢翫(かいがん)も物言わぬ死体に戻る。それは縄網光弦(じょうもう・こうげん)が死んだことを意味していた。
総介「フッ、ひとまずは終わったな……」
山咲(やまざき)桜「ですが、まだヴァルカナ争奪戦は終わっていません」
 そう、本来の目的はこの地に出現したヴァルカナを確保することなのだ。水中に沈んだままであるならば、いず
れ第二第三の光弦(こうげん)が出てくる。そうなるまえに、ヴァルカナは確保しないといけないのだ。
梶太郎(かぢだろう)「ヘッ、双虎拳に抜かりはねぇ!見ろ!これが奴の使っていたヴァルカナだ!」
 水中を探すしかないかな……と考えていた矢先、梶太郎(かぢだろう)がドヤ顔でヴァルカナを見せる。
與鷹(よたか)(別に双虎拳関係ないだろ……)
 内心突っ込みを入れる與鷹(よたか)。
 さておき、帽子をかぶった石でできた巨大な頭部と-VIの数値が刻まれし透明なタロットカードのような代物…
…それは間違いなく《護謨の人(ラバーソウル)》のヴァルカナであり、今回探し求めたアーティファクトであった。

#6
一同「おしまいだ……もう咲魔(サイタマ)はおしまいだ……」
 ふらふらと後退る咲魔(サイタマ)の人々。先代とはいえ、光弦(こうげん)の死は咲魔(サイタマ)に動揺を齎した。
*「静まれ!者ども!」
 その時、突如何者かが声を張り上げる。
*「私が新たなる咲魔(サイタマ)の棟梁である!」
 皆に見せびらかすように右手の甲を翳すその漢。そこには赤と青の四角を組み合わせた八芒星にCCCXIVの数値が
刻まれていた。
與鷹(よたか)「あいつは……弥如(びぎん)か?!」
総介「いや、どうやら違うようだが……」
 確かにアレは弥如(びぎん)百万朱版の転生小聖印(ヴァーミリオン・トランスマイグレーション)……ではあるのだが奴が弥如(びぎん)かと言われるとどうにも違和感がある。
梶太郎(かぢだろう)「てめぇは、一体!?」
*「フッ、私は陣野影路(かげみち)!」
*「「「じっ、陣野……影路(かげみち)?!」」」
梶太郎(かぢだろう)「何!?知っているのか」
*「うむ。奴はユピテルメア兄妹に次ぐ三番目の実力者……」
*「……なのだが、それは序列での話であり、実力はユピテルメア兄妹と比べると数段劣る……」
與鷹(よたか)(だったらそんな奴が新たな棟梁を名乗っても誰も納得しないんじゃ……)
陣野影路(かげみち)「私はユピテルメア兄妹の勝った方に勝った!つまり、咲授(しょうじゅ)の儀を果たしたということになる!」
星露(シンルー)・ユピテルメア「うっ……ぐ……」
 星露(シンルー)の首根っこを捕まえて持ち上げて皆に見せびらかした後、ポイっと投げ捨てる影路(かげみち)梶太郎(かぢだろう)「いや、横から割り込んで勝利を掻っ攫うとか卑怯だろ?」
影路(かげみち)「フッ、咲授(しょうじゅ)の儀とは結果が全て!つまり、消耗したところを不意打ちして勝利しても勝ちは勝ち。それにな
……私はこんな時のために実力を隠していたのだよ!」
與鷹(よたか)「いや、そんなんでいいのかよ……」
梶太郎(かぢだろう)「流石忍者、汚い」
影路(かげみち)「者ども、俺に続け!」
一同「ウオオオオオッ!」
 しかし、咲魔(サイタマ)の連中は新たな棟梁の誕生に浮足立っている様子だった。本当にそんなんでいいのか!?
梶太郎(かぢだろう)「あいつもついでにぶっ飛ばしておくか?」
総介「まぁ、待て、俺達の役目は咲魔(サイタマ)をどうこうすることではない。ヴァルカナの確保だ!」
 梶太郎(かぢだろう)が殴り込みを書けようとするのを止める総介。
 既にヴァルカナを確保した以上、最早咲魔(サイタマ)の隠れ里には用はないのだ。

#7
 兵庫県某所、嘉曦渋寺(かぎじゅうじ)
慈円(じえん)弥如(びぎん)が死んだ……」
韻麗(いんれ)「一人でふらっと出かけて、そして野垂れ死んだということですか?」
慈円(じえん)「あぁ、どうもそうらしい。ただ、話はそれだけではない……奴の代わりを努めたい……と、そいつは言って
きた」
韻麗(いんれ)「何?……そいつ?……誰だ?」
 そもそも、弥如(びぎん)の死を知らせてきたのもその漢であり、彼は自らの手下と共に大神の降真靈(こうしんりょう)に入りたいと言って
きているのだ。
反永(たんえい)「いいではないか……そいつを弥如(びぎん)の後釜に据えよう」
慈円(じえん)韻麗(いんれ)「なっ!?」
 そんな得体のしれない奴を仲間にしていいものか……と考えていると組織のNo.2である反永(たんえい)が告げる。
 大僧正に次ぐ権限を持つ反永(たんえい)の発言に異論を唱えられるものなどおらず、影路(かげみち)は大神の降真靈(こうしんりょう)に歓迎された。
反永(たんえい)「陣野影路(かげみち)と言ったか……お前は今日から大神の降真靈(こうしんりょう)の一員、陀疎(だうと)だ」
影路(かげみち)「はっ……」
 こうして影路(かげみち)率いる咲魔(サイタマ)一行は大神の降真靈(こうしんりょう)の軍門に下ったのであった。


END

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