Eighter -Practical Era-
7ther 〜世にも希薄な彼女 B〜



#3
 とある日の出来事……突然最近付き合いが悪いぞ……などと言われた漢だが……しかし、彼は毎日のように友
達とつるんでおり、付き合いが悪いなんてことはなかったのだが……果たして……
 天四斗あまよと天四斗あまよと大学付属否地球洲いなちぐすキャンパス
品辛斬子ぴんから・きりこ「ここか……」
 ガラガラ……
 入院した吃口乞どもぐち・こうの病室を訪れる斬子きりこ
斬子きりこ「元気か……?」
吃口乞どもぐち・こう「先生……」
斬子きりこ「ん!?」
 病室には包帯でぐるぐる巻きの彼以外に、もう1人見舞いの客がいた……
 彼女の名前は唏口希きぐち・のぞみ……こうと同じく天四斗あまよと工業建築科の生徒である。
斬子きりこ「病室に彼女を連れ込んで医療プレイとはなかなかやってくれるな」
唏口希きぐち・のぞみ「なっ!?」
こう「違ぇよ!!コイツは彼女なんかじゃねぇよ!!」
慌てて否定するこう……それに対し、斬子きりこはその慌てぶりは怪しい……などと邪推する
こう「大体なぁ……俺には彼女なんていないんだよ……唏口きぐちさんとも……悪いくいっちゃなんだが……親しくしてい
た覚えもないし……突然見舞いに来られてちょっとびっくりしているんだよ!」
のぞみ「あなた……それ、本気で言っているの!?」
こうのカミングアウトにのぞみはぎょっとして聞き返す
斬子きりこ「……まぁ、いいや……とりあえず、これはお見舞いの品だ……」
 と、すっと鞄から取り出したるは一冊の本
斬子きりこ「最初は百合の花にでもしようと思ったんだがな、やっぱ流石にマズかろうと百合小説にしてみた」
のぞみ「いや、なぜにそれをチョイスしたんですか!?」
斬子きりこ「まぁ、騙されたと思って読んでみろ」
こう「いや……」
 そもそも教師が生徒にそんなもの勧めるな!と2人……しかし斬子きりこはこれでお見舞いに満足したのか、そのまま
百合小説をおしつけそそくさと帰ってしまう
こうのぞみ「……」
 残されし百合小説……そして、長い沈黙……
のぞみ「……さっきの話だけど……」
 そして、口を開くのぞみ
こう「ん?さっきの……?……ああ、アレか……いや、その……何と言うか……」
 流石に親しくしていないのに突然見舞いに来られてびっくりとは言い過ぎたか……とこう……
のぞみ「……彼女がいないなんて本気で言っているの?」
こう「は!?」
 突然、何を言い出すんだ!?とこう……
こう「いや、いないって……」
のぞみ「最低」
 ぐいっ
 バシャアア〜〜〜
こう「ぬがぁ!?なななっ!?」
 いつの頃からか天井からぶら下がっていた紐を引っ張るのぞみ……するとこれまたいつの間にか天井に設置してあっ
たバケツが傾き、中の水が盛大にこうにかかる
※いやいや、のぞみ……お前、病室に何を仕込んでいるんだ!?

#4
のぞみ「……アンタなんか……彼女に逢う資格無しよ!」
 ヅカヅカヅカヅカッ
 そのまま彼女は病室を去っていく
こう「ちょ、ま、待て!このままじゃ俺風邪引くんですが……」
そんなこうの意見も軽く無視するのぞみ
こう「……俺が……何したってんだ!?」
・
・・
・・・
 その後、病院を出た彼女は……
吹口欠ふきぐち・かける「……やっぱり……忘れていた……んだな……」
のぞみ「ええ……本当に……」
 病院の前でかけると出あう
かける「馬鹿野郎が……」
 そのままこうの入院している病室を見上げる
かける「やっぱり、俺が……あの時、強引にでも彼女と付き合っていれば……」
のぞみ「でも……それでも……あの子は……こうしか目に映っていないのよ……」
 恋は盲目……とはよく言ったものね……とのぞみ
かける「……クソッ……」
 さて、ここで少しばかり解説を行うと……そもそもの発端は『こうの付き合いが悪い』こと……そして、それは友
達のかけるとの付き合いが悪い……ということではなく、彼自身が忘れてしまっていた彼女との付き合いの話なのだ…
…
 友達との付き合いを優先され、蔑ろにされた彼女……その彼女に代わって2人は鉄拳制裁を下すことを決意した
のだった
※と、言うかそこまで蔑ろにされながら、別れ話の一つも持ち出さない彼女……健気だな……
その頃、病室に1人残されたズブ濡れのこうはというと……
こう「ハックショイ……くそっ……本当に風邪ひいちまうぞ……」
*「大丈夫……?」
こう「あ……あぁ……何と……かッ!!?」
 突然、いつの間にかさも当然のように出現した彼女にビックリ仰天なこう
こう「えっと……」
 その彼女こそ先ほどまで出てきた忘れ去られた希薄な彼女……名前は叱口しかく七……
叱口しかく七「……」
こう「ヒッ……」
 無言で佇む彼女……だが、その沈黙は重く、苦しい……
七「……」
こう「ひぃい!!?」
 ずざざっ
 そのままベッドの脇に追いやられるこう……そして、彼はようやく思い出した……自分に彼女がいないというのは間違
いだったと……最近、友情に熱をあげ、恋愛はからきしだったと……
七「ずっと……ずっと待っていたのに……」
こう「い……いや、悪かった……すまん……これは……つまり……分かった!!これからは……何でもする!!だか
ら……許して……くれ!!」
 びしょぬれのままベッドの上で土下座をする了
七「……じゃあ……もう逃がさない……」
こう「え!?」
 ニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべる七

#5
 その後……公の場でこうの姿を見たものは誰もいない……
 一説によると、希薄な彼女に監禁され、束縛を受けている……らしいが……誰もその真実を知らない……
七「ウフフ……」
こう「……」
 ガクガクブルブル……


END

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