Eighter -Bizarre Investigate-
56ther 〜空気冗談(エア・ジョーダン)ではない〜



#0
 人の身の回りにある最も身近な凶器はなんだと思いますか?
 意外、それは空気!
 そう、酸素(O2)オゾン(O3)となれば有害となりうるのだ
※いや、そういう話ではない。

#1
 茨城県某所、けゑきの(いえ)
 そこはまるでグリム童話のヘンゼルとグレーテルに出てくるようなお菓子の家みたいな外観が特徴の老人保健施
設である。
 そして今、この施設で怪訝(おか)しな事件が発生していた。
※お菓子だけに!?
 事の起こりは一年前……
 この施設に入所していた士口田竹即次(しくだ・ちそじ)(当時76歳)がお亡くなりになった。
 竹即次(ちそじ)さんは息子夫婦からは煙たがれ、この施設に無理やり放り込まれた経緯があり、当時は不謹慎ながらも息
子夫婦が竹即次(ちそじ)さんの死に対してガッツポーズを行ったことがニュースで報道され、悪い意味で一躍有名人となっ
た。
 そして今、またこの施設に入所していたご老体、金令木喜人乍(きれき・きとな)84歳がお亡くなりとなった。
 喜人乍(きとな)さんは矍鑠(かくしゃく)とした御仁であり、なぜ老人保健施設に入所したのかが分からない程の元気な老人であり、突
然の死に親族も悲しみを隠せない様子であった。
 昨日まで元気に施設の外を上半身裸で駆け巡っているような人が突然死ぬのは怪訝(おか)しいと思った親族はすぐさま
警察に通報。
 直ちに司法解剖が行われた。

警官「細井警部、司法解剖の結果、ホトケの体内からは空気が検出されました」
一同「いやいや、何を言っているんだお前は、地球上に生存している以上、体内から空気が検出されるのは当然の
ことじゃないか」
 一同、盛大な突っ込みであった。しかし、面の皮が厚いのかその警官は一同を無視して話を進める
警官「まぁまぁ、話は最後まで聞いてくださいよ。空気が検出されたのは血管……つまり、血液が循環しなくなっ
たことが死因ですね」
一同「……」
細井蟹「何ぃ!?つまり、殺人か!?」
警官「はい、更に独自に捜査を進めた結果、驚くべきことが判明しました!」
 けゑきの(いえ)に入所した老人は他の施設に入所した老人と比べて亡くなりやすい……当初はイメージダウンのため
の根も葉もない噂かと思われたが、事実、けゑきの(いえ)に入所した老人は他の施設に入所した老人より亡くなり易い
という結果が判明したのだという

#2
警官「それだけではありません」
蟹「まだ何かあるのか?」
警官「はい」
 けゑきの(いえ)の老人死亡率が高くなったのと同じくして一人の看護師が施設に勤務しています。
 これは偶然で片づけられるとは思えませんと彼は続ける。
蟹「その看護師というのは?」
警官「はい。青間魃醜(ばつみ)……バイオハザードのマークがついたマスクと下着姿と見紛うコスチュームで有名な女性で
す」
※それは果たして看護師なのだろうか!?
 しかも、彼女は大量の注射器を常備している風変りな看護師なのだという。これはもう状況証拠はクロだ。
 早速茨城県警はけゑきの(いえ)へ急行する。

蟹「茨城県警だ!」
*「警察の方もウチに入所ですか?」
一同「そんなワケあるかい!」
 とっとと青間魃醜(ばつみ)を出してもらおうか!とまくし立てる細井警部。
*「彼女は特に男性の入所者に人気でして……やはり、人間年をとってもアッチの方は健在なんですかねぇ」
警官「ンなことはどうでもいいわ!」
警官「彼女が勤務してからこの施設の死亡率が高まっているのは既に分かっているんだ!」
*「彼女に興奮しすぎて心臓が……とか言い出すつもりですかね?」
警官「なるほど!その可能性もあるな……」
 いやいや、何納得してるんですか……
*「だが、こちとら彼女のおかげで回転率が速くなって助かっているんだ。連れて行ってもらっては困る!」
一同「えぇ……」
 どこの回る寿司屋だよ!老人ホームで回転率が速いとか怪訝(おか)しいだろ!
蟹「ともかく、彼女を出せ!」
青間魃醜(ばつみ)「だが断る」
一同「えぇ……」
 そこへやってくるのはバイオハザードのマークがついたマスクと下着姿と見紛うコスの女性……
 こんな恰好をしている女性が二人といるわけがない……そう、青間魃醜(ばつみ)だ!
魃醜(ばつみ)「この青間魃醜(ばつみ)、人の頼みを素気無く断ることに一種の快感を覚える人間なのよ」
警官「そんな無茶苦茶な……」
 本当にこの人何なの!?絶対に看護師じゃないだろ……
蟹「じゃあ警察まで来なくていい。逮捕もしないし任意同行もなしだ」
魃醜(ばつみ)「だが断る……あれ?!」
 見事に策にはまった瞬間だった。
※いや、単なる馬鹿か……

#3
 だが、彼女は老人に空気を注入して殺しているだけではなかった。
 時には毒物を注入して殺人を犯すことも辞さない巫山戯(ふざけ)た女性でもあったのだ。
 茨城県警に手錠をかけられ、連行されることとなった彼女だったが、しかし、一瞬の隙をついて警官に毒物を注
入して殺害。
 パトカーを奪ってその場から逃走を図る。
 手錠は注射針でピッキングして外すという芸当までやってのけたのだ。
蟹「な、なにぃ!?」
警官「細井警部……どどどど、どうしましょう」
蟹「どうもこうも、奴を殺人の現行犯で逮捕だ!」
一同「イエッサー!」

 しかし、いつまでも逃げられるものではない……
 指名手配された上に、特徴的な恰好をしている彼女に逃げ場などない。
※普段があんな恰好なんだから普通の恰好すれば見つからないと思うんですよね……
 ……それでも、茨城県警は彼女を逮捕できなかった。なぜならば、彼女は自ら命を絶ったからだ。
 警察に捕まるくらいならば死を選ぶ……最初から最後まで巫山戯(ふざけ)た女性であった。


END

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