Eighter -Midnight Howling-
38ther 〜南米に捧ぐ鎮魂歌(レクイエム) B〜



#3
 マナウス、アビスの大穴……ここは世界有数の界間撤鋼接衝点(アクセスポイント)
 だから、ここならば過初叨素(ヨグ=ソトース)はいつも以上に自分の力を振るえるのだ。
元人交喙(いすか)「じゃあ、神の力が使えるかんならはあいつら自身がその、界間撤鋼接衝点(アクセスポイント)って奴なのか?」
蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)「厳密には、違いますね」
 界間撤鋼接衝点(アクセスポイント)とは発信がメインだ。そして、かんなたちは受信がメインである。この点が簡単ではあるが両者
の最大の違いと言える。
梓與鷹(よたか)(発信と受信……言いえて妙ってところか……)
交喙(いすか)「あれ?ちょっと待てよ……」
 新たな疑問が浮かび上がる
交喙(いすか)「この場所が異世界からの情報発信エリアだとするならば、かんな達だっていつも以上に力を発揮できるって
ことなんじゃねぇのか?」
 なのに、何故こうも劣勢なのか……
與鷹(よたか)「そりゃ、過初叨素(ヨグ=ソトース)が規格外の……」
 そこまで言って與鷹(よたか)はハっとなる。
 そのまま死合っている白拍子三姉妹や過初叨素(ヨグ=ソトース)をじっと見る
交喙(いすか)「おいおい、結論はどこ行ったんだよ」
與鷹(よたか)「ちょっと待ってろって……」
 なぜだかは分からないが、わかることが二つある。
 ここが界間撤鋼接衝点(アクセスポイント)ならば、過初叨素(ヨグ=ソトース)の力はもっと強く、(おぞ)ましく、見るものをSAN値直葬するはずだ
 そして、かんならも自らに力を貸す異世界の神……その力をもっと引き出せるはずだ……
與鷹(よたか)「そうか、そのための修行か……」
 ここで異世界の神の力をより多く引き出して過初叨素(ヨグ=ソトース)を斃せても意味がない。
 人の姿を持つ場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)との死合はここで行われるわけではないからだ。敵が場所を選んでくれるなんて
ことはありえない。
 ならば、自分たちを鍛えるしかないのだ……
 一人納得する與鷹(よたか)に、交喙(いすか)はえ?つまり、どういうこと?と疑問符が浮かびっぱなしだ。
蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)「そういえば、あなた方がここに来た目的は別にありましたね……」
交喙(いすか)「え?あったっけ?」
カルロス・エスピンガルダ「いやいやいや……」
 当初の目的はマナウスに行ったまま音信不通になったカルロスらの父母を探す事だ。
リーザ・エスピンガルダ「あ、あなたは、知っているというんですか?」
ローザ・エスピンガルダ「パパやママのことを?」
蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)「ええ」
エルザ・エスピンガルダ「ど、どこ?パパとママは……」
蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)「二人ならば、あそこで静かに眠っていますよ」
一同「……」
 蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)が指さすその先では、互いの手を握り、安らかに眠るアリエラ、シドホスの姿があった。
 そして、その傍らには星の羅針盤が転がっていた。

#4
交喙(いすか)「クッ、世界有数のトレジャーハンターがまた一人亡くなってしまった……」
 一人哀しみに暮れる交喙(いすか)になんて言葉をかけていいのかわからない與鷹(よたか)
※色んな意味でなんて言葉をかけていいのか分からない状況
リーザ、ローザ、エルザ「パパ、ママ……」
 唐突に依頼は達成された。
 あとはかんならの修行を見守るだけ……か?
カルロス「携帯は圏外……だから、音信不通だったってことか……」
交喙(いすか)「APなのに圏外だなんてな……」
 まぁ、現実世界のAPとこの場所のAPは別物だからね……
與鷹(よたか)「どうやら、送信しようとして失敗だったから諦めたメールが残っていそうだな……」
 送信ボックスにはいくつかメールが残っていた。
カルロス「最後の手記……ってわけか……」
 と、言うわけでさっそく読んでみる一行。
 最初の方はアビスの大穴についての考察やらなにやらだったが、終盤は食料が底をついてきた……とかそんな感
じの近況報告だった……
 そして、最後には、これが最後の米と水……粥美味(かゆうま)とだけ記されていた。
一同「……」
 バイオハザードかッ!いや、クトゥルフ神話的なSAN値がゼロって状況ならこうなるかもいれないけど……
蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)「星の羅針盤があったとはいえ、人がここを訪れることは至難の業ですから……」
 マナウスの途中で見かけた発狂したキャラバンファミリーの連中を目の当たりにした今、この二人のSAN値はも
の凄かったのではないか……とまで思えてくる。
※だからなんだ?って言われたらそれまでですが……
與鷹(よたか)「星の羅針盤……?」
蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)「ええ、アレがないことにはここには入れませんから……」
 星の羅針盤なしでここへ到達するためには子孫に望みを託して冒険を続けるといった行動が必要……なので厳密
に言えば到達できなくはないですが……とも続ける蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)
 そういうのは到達できるとは言わない。
※なお、かんならは過初叨素(ヨグ=ソトース)に呼ばれたので瞬時にここに到達できました
交喙(いすか)「……この二人は彷徨いの果てに死んだのであって、誰かが殺したわけではないってことか……」
與鷹(よたか)交喙(いすか)……?」
 もし、誰かに殺されたのであれば弔い合戦をするつもりだった交喙(いすか)であった。
蒐葡貮繰(シュブ=ニグラス)「持ち帰って埋葬するのであれば……」
カルロス「いや、ここに墓を……」
リーザ、ローザ、エルザ「パパとママの望み、死ぬときは遺跡の奥で……と……」
 なんて遺言だ……
 ま、ともかく、二人はこのアビスの大穴で安らかに眠ることになる
 ……死してもなおSAN値ガリガリ削られそうだけど、本当に安らかに眠ることが可能なのか?

#5
 と、そんなことはさておいて、放置されていた過初叨素(ヨグ=ソトース)との死合に話は戻ります
過初叨素(ヨグ=ソトース)「……つまらんな……この程度では、余興にもならんぞ……」
 無傷で中央に立つ過初叨素(ヨグ=ソトース)と、その周りの地面に叩きつけられている白拍子三姉妹
白拍子かなり「まだまだ遊びはこれからよ!」
白拍子かれん「いや、別に遊んでいるわけじゃ……」
白拍子かんな「姉さんたちは元気ですね……」
過初叨素(ヨグ=ソトース)「フッ、まだ軽口を叩ける元気は残っているというわけか……」
 遊び……というのならば付き合ってやる!と過初叨素(ヨグ=ソトース)
 修行はまだこれからだ……


END

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