Eighter -Midnight Howling-
34ther 〜色違(いろち)電流眠中夢索(ドリーミング) A〜



#0
 埼玉県、熊谷市のとある県営団地……ここは今緊迫した空気に包まれていた。
 それもそのはずである、団地からわずか半径250m以内のエリアにて次々と不審火が相次いだためである。
 その数実に六件。(未遂も含めれば七件となる)
 一体、この地で何が起こっているというのか……

#1
 埼玉、熊谷某所、鍼暴(はりぼう)組本家
 それは古くから埼玉の裏世界で覇を唱えていた任侠に生きる義のヤクザ。
 赤いリボンに彩られた熊をモチーフにした家紋で有名である。
*「お嬢……」
 屋敷の縁側に座るセーラー服の女性に対して傅くサングラスの黒服。サングラスをしているから一見わからない
が彼はキツネ目が特徴である。
*「今月に入って既に六件」
*「ええ、わかっているわ……」
 セーラー服の女性は桐辻鞘火。まだ学生の身でありながら、この鍼某組の九代目を襲名した女傑である。
 そして、彼女に傅く黒服は権狐兵十(ごんこ・へいと)。彼女の護衛であり先代の頃より鍼暴(はりぼう)組に義故に仕える忠義の者である。
 今、鍼暴(はりぼう)組は行くか頭を悩ませる問題を抱えていた。
 一つは鍼暴(はりぼう)組の支配下にある団地、蛇腹輪具(じゃばらりんぐ)荘の周辺で起こっている連続不審火の件だ。
 現段階では空き地にある物置などが燃やされているだけであり、負傷者が出ていないのは幸いと言えばよいのだ
ろうか……しかし、悪質なイタズラ……いや、イタズラにしては度が過ぎている。
 もう一つは鍼暴(はりぼう)組支配下のエリアに土足で上がり込み、版図を広げているイタリアンマフィア、ソンニャーレの
ことだ。
 不審火が相次いでいる団地に居を構え、勝手に畑を作っているだけではなく、麻薬の売買まで始めているのだ。
義理と人情を重んじる鍼暴(はりぼう)組にとって、これは看過できない事件である。
桐辻鞘火「ナめた真似をしてくれるじゃない」
権狐兵十(ごんこ・へいと)「……」
鞘火「行くわよ」
 意を決し、縁側からすっくと立ちあがる鞘火
兵十(へいと)「お嬢、どこへ……?」
鞘火「あの漢を呼びなさい」
兵十(へいと)「はっ!」
 そして、呼ばれて飛び出たのは総介である
※呼ばれて飛び出るって……

(かみ)総介「イタリアンマフィアに麻薬の売買……か……」
山咲(やまざき)桜「それから、相次ぐ不審火……」
兵十(へいと)「それだけじゃない、奴ら、勝手に畑を作って野菜を育てていやがる」
 これは明らかに鍼暴(はりぼう)組に対する宣戦布告!とドカンと畳に拳を叩き付けて叫ぶ兵十(へいと)
鞘火「不審火があったのはいずれもイタリアンマフィアが畑作に使用するための農具を保管していた物置……」
総介「フン、ならば、怪しいのはお前らということになるが……」
鞘火「まさか……」
兵十(へいと)「貴様ッ!お嬢を愚弄するか!」

#2
 兵十(へいと)は立ち上がると床の間に飾ってあった日本刀を手に総介を睨む。
桜「落ち着いてください」
兵十(へいと)「ああ?これが落ち着いていられるか!」
鞘火「お待ち」
兵十(へいと)「……お嬢……」
 一触即発……いつ抜刀して斬りかかってもおかしくはない兵十(へいと)を止めるのは鞘火。
総介「そう思われても無理はなかろうに……」
 不審火が始まりだしたのは件のイタリアンマフィアが蔓延り始めた頃……より正確に言うならばソンニャーレが
勝手に畑作を始めだしてからだ。
 ならば、イタリアンマフィアに対してイヤガラセとして放火を始めたのではないかと思うのは……いや、よく考
えたら普通じゃないけど……
鞘火「そんなみみっちい真似を我が鍼暴(はりぼう)組がするとでも?」
 その言葉には圧があった。それはとてもじゃないが、一回の女子高生の言葉の重みとは思えなかった。
 学生の身でありながら、修羅場をくぐってきた彼女だからこその言葉……と言えよう
総介「だが、今の針暴組とて一枚岩ではなかろう?」
鞘火「それは……」
桜「そもそも、ソンニャーレとは鍼暴(はりぼう)組八代目、桐辻禅像がイタリア、サンマリノで知り合ったマフィア」
総介「かつて禅像はイタリアでテロに巻き込まれた……その時、禅像を助けてくれたのがソンニャーレの幹部」
 義故に改めてお礼に出向いた際、鍼暴(はりぼう)組とソンニャーレは懇意の仲となった。
 その後、禅像はソンニャーレを日本に招待した。
 ……だが、そのとき悲劇は起こった!
 テロリストの残党が日本までやってきて、禅像を殺したのだ。
総介「そして、禅像の葬式の際、鍼暴(はりぼう)組は真っ二つに分裂した……」
兵十(へいと)「……嫌に詳しいじゃねぇか……」
総介「フン」
 あまり俺を舐めるなよ!と言わんばかりの総介。これでこそSRAPだ。(いや、それ、関係あります?)
桜「禅像の遺志を継ぐ、正統派……九代目の貴方を筆頭とする一派と……」
鞘火「父の側近で野心家だった徒勝大和(とかち・やまと)を筆頭とする過激派……」
総介「奴の野心に際限はない……」
兵十(へいと)「何だって?」
総介「過激派の最終目的は埼玉裏社会の頂点に君臨する事……そのためならばなんだってやる」
鞘火「証拠は?」
総介「勿論あるとも……山咲(やまざき)!」
桜「はい、警部」
 そして、桜はこの場にとある団体を招き入れる……その団体とは……


続

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