Eighter -Blindness Wizard-
53rder 〜魔術師たちの相剋 D〜



#7
 一方その頃、エスティリオはというと……
エスティリオ・アリーフ・ザンスパイン「エ〜〜ルザ〜〜」
 とある部屋のベッドの上で(うな)されていた。
エスティリオ「はっ!?ここはどこであるか!?」
 そして、目を覚ます
網谷ゼルシフォム「気が付いたかね?」
エスティリオ「なっ、貴様はゼルシフォム!?」
 ここはどこで、エルザは!?奴らはどうなったであるか!?と矢継ぎ早に質問を行うエスティリオ
ゼルシフォム「まぁ、まずは落ち着いたらどうだ?」
エスティリオ「これが落ち着いていられるか!奴らは、大導師(グランドマスター)様を亡き者にしたうえにワガハイをその犯人にした
てあげたのであ〜る。これが落ち着いていられるか!」
 ふんが〜と怒りを露にするエスティリオに対し、だから、少し落ち着け……と宥めるゼルシフォム
ゼルシフォム「では、順序だてて話をしてあげよう……」
 興奮が落ち着いたところでゼルシフォムは語る。
 まずはあの男、ロズエリクは時を見て今の大導師(グランドマスター)を亡き者にし、自分がその座に就くことを画策していたと
エスティリオ「ななっ」
 それを知っているならと問いただそうとするも、もし、そうなったら真っ先に消されることは明白。
 だからこそ動くわけにはいかなかったとゼルシフォムは続ける。そして、奴がそれを行うのは現存する七罪塔(しちざいとう)が
全て揃うとき。だからこそ、ゼルシフォムはあの時さることを決意したのだ。
 次に、ここはゼルシフォムが使っている隠れ家の一つであると告げる。
 シレントワイザード本部から辛くも逃げ出すことに成功したエスティリオ。しかし、気絶しており、追手に見つ
かれば消されるのは必定。運よくゼルシフォムが先に見つけたことで、この隠れ家に運んだのだという。
ゼルシフォム「そして、最後に、君の言うエルザだが……」
 そして、ゼルシフォムは焼け焦げた紙片を一つ
エスティリオ「オオオッ!?こ、これは、まさか!?」
 そこにはエルザンドゥ草稿と一文字記載されていた。それは、つまり、エルザのナレノハテであることを意味し
ていたのだった
ゼルシフォム「私が告げられるのはこれで全部だ」
エスティリオ「あ、ああああっ」
 愕然とその場に頽れ、慟哭するエスティリオ
ゼルシフォム「では、私はこれでお暇させてもらうよ」
 と、言っても既に聞いていないかもしれないがね……と残し、ゼルシフォムは去っていく。

#8
エスティリオ「エルザ、おおおっ、エルザぁ〜〜〜」
 暫く泣き崩れていると、どこからか声が聞こえる
*「ねぇ、君はどうして泣いているの?」
エスティリオ「なっ!?」
 謎の声は、しかし、エスティリオにはどこか懐かしい声であった。
エスティリオ「こっ、この声はッ!ま、まさかッ!」
 ここで少し、エスティリオのことについて少し話をしよう。
 彼は、自ら魔導書を作り出すほどの鬼才であるが、どうして自分で魔導書を書くに至ったのか……
 それは、幼いころに彼が出会った一冊の本にある。いや、それはただの本にあらず、魔導書であった。
 その魔導書は喋る魔導書ではあったが、一度も擬人化したところを見たことがなかった。だが、それでも、幼き
頃のエスティリオにとっては唯一無二の友であると言っても過言ではなかった。
 そして、彼は決意する。その喋る魔導書に、同じように喋る魔導書の友達を作ってあげようと……
 それこそが彼の出発点。そして、狂気じみた執念の果てに、エスティリオはエルザンドゥ草稿を書き上げた。
 ちなみに、彼が幼き頃に出会った喋る魔導書は、いつの間にか彼の前から姿を消していた。
 だが、それでも、エスティリオは魔導書を作り上げた。すべてはあの時であったあの本に友達を作ってあげるた
めに……しかし、それも今となっては砕かれた。
エスティリオ「ま、まさか、まさか、アレは!?」
 暫くゼルシフォムの隠れ家を疾走したのち、とある部屋にたどり着く。
 そこには一冊の本が置かれていた。それこそが、彼が幼き頃に出会ったあの魔導書。当時は名を読むことすら出
来なかったその魔導書の名は……ファルゼシア幻稿!
エスティリオ「ワガハイは、まず、謝らなければならないのであ〜る」
*「どうして?」
 君のために友達を作ると決意した……それなのに、その約束を果たせなかった……と……
*「そう……」
 ファルゼシア幻稿は優しく語り掛ける。
 その子のことをよく聞かせてほしいとせがむファルゼシア幻稿。
エスティリオ「ならば、聞かせてやるのである。ワガハイの最高傑作!凶暴なワガハイの愛馬を!」
※いや、愛読書でしょ……
 しかし、ファルゼシア幻稿は語るよりも、多くを知りたいと。その子の紙片のひとつでもあれば、私に挟んでほ
しいと……

#9
 で、あるならば、その願いを叶えないわけにはいかない。そのためにエスティリオはエルザを作ったと言っても
過言ではないからだ。
 パラパラと適当に開いたページに、しおりでも挟むかの如く、エルザの紙片を挟んでみるエスティリオ。
 カカッ
エスティリオ「こ、これはッ!?」
 一瞬の閃光の後、そこにファルゼシア幻稿の姿はなかった。いや、そこには一人の魔導書娘(少女)の姿があっ
た。
エスティリオ「お、お前は、エルザ!?……だが、エルザは……」
 そこにいたのはエルザに似た、しかし、似て非なる魔導書娘。それは、ファルゼシア幻稿が擬人化した姿だ!
 エスティリオの妄執が、今、奇跡を起こしたのだ
※いや、妄執が起こした奇跡ってなんか嫌だよ……
*「いいえ、私はエルザではありません」
 私はファル、ファルゼシア。エルザの遺志を継ぐもの。
ファルゼシア「マスター、共に行きましょう」
エスティリオ「……よかろう!ならば、行こう!ワガハイと共に!ロズエリク、見ているであ〜る!ワガハイを貶
めた報いは必ず受けてもらうのであ〜る!」
 最初の目標は大導師(グランドマスター)の弔い。

 一方、その様子を遠くから見ていたものがいた。ゼルシフォムである。
ゼルシフォム「やはり、彼にあの子を託したのは間違いではなかった」
 しんみりと呟くゼルシフォム。
 実はファルゼシア幻稿の著者はゼルシフォムだったのだ。
ゼルシフォム「さらば、ファルゼシア。願わくばその生涯に幸あらんことを……」
 そして、今度こそゼルシフォムはその場を後にする。


END

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