Eighter -Blindness Wizard-
20ther 〜黎光(ひかり)皎影(かげ)の柳生 B〜



#3
 裏の人斬り、柳生衞琉(えいる)七罪塔(しちざいとう)が《嫉妬(エンヴィー)》レヴィアタンに唆されて赫眼(かくがん)同盟本部へ襲撃をかける。
伊達宗美「なんだ?あいつ、お前の姉妹かなんかか?」
 赫眼(かくがん)同盟本部に現れたのは兵子(ひょうこ)に似た姿の少女だった。兵子(ひょうこ)との最大の違いは眼帯にある。
柳生兵子(ひょうこ)「……彼女は柳生衞琉(えいる)」
 江戸柳生を継ぐ者、とか暢気に続けているが、その間、ずっと兵子(ひょうこ)に向けてすさまじい殺気が放たれている。
 こんな中で平然と喋る兵子(ひょうこ)は只者じゃないな……
柳生衞琉(えいる)兵子(ひょうこ)……」
 宗美がお前、一体彼女に何をしたんだ?ものすごく怒っているんだけど……と、言いかけたその瞬間に、衞琉(えいる)が
一足飛びにかかる
兵子(ひょうこ)「はっ」
 ガカッ
衞琉(えいる)「ふふふ、流石は柳生」
 襲い掛かってくる衞琉(えいる)に対して抜刀して応戦しようとした瞬間、衞琉(えいる)は柄から手を放し無刀取をくらわそうと動
きを変える。が、しかし、兵子(ひょうこ)も柄から手を離すと迫る衞琉(えいる)の腕を掴んで無刀取を止める。
 この間僅か数秒の出来事である。
 いや、お前も柳生だろ!と思わず心の中で突っ込む宗美だったがそんなことよりもこの応酬に思わず息をのむ。
兵子(ひょうこ)衞琉(えいる)「……」
 無言のまましばらく時間が過ぎると、二人は距離を取って対峙しなおす。
兵子(ひょうこ)「何をしに来たんですか?衞琉(えいる)……」
衞琉(えいる)「私がここに来る目的なんて一つ……あなたにもわかっているんでしょ?」
 ギロリと怒りに満ち満ちた瞳で睨み付けながら衞琉(えいる)が叫ぶ。
 そして、兵子(ひょうこ)もまた分かってはいる。これは尾張柳生と江戸柳生の確執……だが、今回は何か怪訝(おか)しい。いつも
以上に無駄に殺気立っている衞琉(えいる)兵子(ひょうこ)は戸惑いを隠せないでいた。
衞琉(えいる)兵子(ひょうこ)!今日こそあなたをこの蜘蛛切の錆にしてあげるわ!」
 今日が、尾張柳生の終わりの日よ!とか叫んで襲い掛かってくる衞琉(えいる)。
宗美「ダジャレかよ!」
 思わず突っ込んでしまう宗美であった。
 ガキンッ
 ギギギンッ
 そんな宗美の突っ込みもどこ吹く風。兵子(ひょうこ)も白雷を抜き放っては蜘蛛切を受け、激しいつばぜり合いへ
宗美「ええと、兵子(ひょうこ)が兵庫助の子孫で、衞琉(えいる)が十兵衛の子孫……」
 とりあえず、暇なので状況を整理してみる宗美。
 要するにこれは江戸柳生と尾張柳生の確執ってことだ……
宗美「で、あの二人の確執ってなんだ?」
 そこまでは分かったとして、肝心な事が分からない宗美であった。
島友近(ゆこん)「うふふふ……では、教えて差し上げましょうか?」
宗美「どわおっ!?友近(ゆこん)、お前いつからそこにいたんだ?」
 突如現れた友近(ゆこん)にビックリ仰天する宗美。

#4
友近(ゆこん)「五月蠅いですわね、知りたいんですの?それとも知りたくないんですの?」
宗美「いや、普通に知りたいけど……」
 今後赫眼(かくがん)同盟として仕事があったときに衞琉(えいる)が襲ってきたらたまったもんじゃないからなぁ……と珍しくマトモ
なことを言う宗美。
 明日は大荒れですわねぇ……とか呟く友近(ゆこん)に喧嘩なら買うぜ!って宗美がキレかかるのをなんとか宥める友近(ゆこん)…
…それはさておき……
友近(ゆこん)「では、私が知る限りのことをお伝えしますわよ……」
 そして語りだす友近(ゆこん)。
 柳生兵庫助も柳生十兵衛も同じ柳生新陰流の使い手……だというのは最早言うまでもないだろう。
 尾張柳生と江戸柳生。実はその始まりはまさに兵庫助と十兵衛なのである。十兵衛の父、柳生宗矩(むねのり)は柳生の剣を
刺客の剣へと推し進めた。当然、彼の息子である十兵衛もまた、柳生新陰流を刺客の剣として使った。
 だが、それを良しとしなかったのが兵庫助、十兵衛の祖父……すなわち宗矩の父、石舟斎だ!
友近(ゆこん)「以後、兵庫助率いる尾張柳生が表に出、十兵衛率いる江戸柳生が裏に入ることとなりましたのよ。分かりま
す?この意味……」
宗美「……つまり、本流と支流が逆になったってことだろ?」
友近(ゆこん)「ええ、本流たる江戸柳生が影の柳生、支流たる尾張柳生が光の柳生として世に広まりましたわ。おそらくこ
れがあの二人の間にある最大の確執ですわ」
宗美「……ふ〜〜〜ん」
 自分で聞いておいてなんだかどうでもよさげな宗美。
友近(ゆこん)「……ちょ、人が折角説明してあげましたのに……何ですの?その態度は!」
 闇炎(やみほむら)に手をかけて怖い笑顔で友近(ゆこん)が言う。
宗美「……あ……あははは……」
 笑いつつ友近(ゆこん)から距離を置く宗美であった。

 さて、外野は置いといて、肝心の兵子(ひょうこ)衞琉(えいる)はというと……
兵子(ひょうこ)「……」
衞琉(えいる)「はあああ!」
 ザザザザザザザッ
 終始無言の兵子(ひょうこ)と、終始何かしら叫びながら斬撃を繰り出す衞琉(えいる)。
 なんとも両極端な二人だった。
 暫く鍔迫り合いを繰り広げた後距離を置いて対峙する両雄
衞琉(えいる)「クッ、少しはやるわね……だけど江戸柳生の剣の恐ろしさ……身をもって思い知りなさいッ!」
 ゴヒュンッズバアアッ
 見えない蜘蛛の糸に絡めとられ、動けなくなった後になすがままに斬り裂かれる……飛燕。
兵子(ひょうこ)じゃなく飛んでいる燕かよ!
衞琉(えいる)「ふふん、見た?これぞ江戸柳生の剣の恐ろしさ!!蜘蛛切の力なのよぉ!!」
 自慢げに語る衞琉(えいる)……だが……
友近(ゆこん)「……いや、あの〜〜〜それは江戸柳生の剣の恐ろしさじゃなくて蜘蛛切の恐ろしさではありませんこと!?
……まぁ、確かに『剣』の恐ろしさではありますけど……」
 ……すかさず的確な突っ込みを入れる友近(ゆこん)。


続

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