Ex-Story
灰色の記憶



世界は大きく3つに分けることができる・・・true/false/nilの3つに・・・
そして、これは・・・
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・・・
私が初めて目覚めたとき、世界は灰色のnilに染まっていた。
どこを見渡しても灰色のnilしかないその世界は退屈だったので、私は眠りにつくことにした。
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私が次に眼を覚ました時、世界には黒色のfalseが生みだされていた。
でも、黒色のfalseに侵食されるだけの灰色のnilもまた退屈だったので、私はまた眠りにつくことにした。
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・・
・・・
次に私が目を覚ました時、世界には白色のtrueが生みだされていた。
灰色のnilは殆どなく、白のtrueと黒のfalseが目まぐるしく入れ替わっていた・・・
私は白と黒の鬩ぎ合いを暫く観察してみることにした・・・
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・・・
*「・・・」
白のtrueはいつも、同じ場所に座していた。
*「白き名無しポジティヴ・ネームレス・・・」
*「――――――・・・今日も来てくれたのですね?」
それに対し、黒のfalseはあちこち目まぐるしく駆け巡っていた・・・
よく聞こえなかったが、どうも、白のtureは名前がなく、逆に黒のfalseには名前があるようだった・・・
*「・・・白き名無しポジティヴ・ネームレス・・・私がここに来るのも今日が最後だよ・・・」
*「・・・寂しくなりますね・・・」
*「フン、だったら、お前も・・・世界を回ればいい・・・何をするでもなく、ただ、座しているだけでは」
*「・・・それが、私ですから・・・」
黒きfalseは白きtureの態度、言動に苛立っていた・・・
*「・・・やはり、私はお前が嫌いだ・・・白き名無しポジティヴ・ネームレス・・・自分で自分を定義しようとしない・・・自分を
 世界に知らしめようとしない・・・お前は・・・お前は・・・」
なぜだろう・・・すごくもどかしかった・・・私はそのとき、白きtureに感情移入しているのだと思っていた
・・・
*「次に私がお前に出会うときまで・・・お前は自分の名前を定義しておけ!」
そして、黒きfalseは白きtrueの元を去って行った・・・
*「・・・――――――・・・あなたと当分会えなくなるのは寂しいことだけど・・・でも、私は・・・ここに
 いる。それが私の存在意義。――――――・・・あなたにはわからないことかもしれないでしょうね」
・・・白きtureの存在意義は別にどううでもいいが・・・いつまでも同じ場所でただ座して待っているだけでは
何も起きない・・・黒きfalseのように世界を巡ればいいものを・・・
私は白きtureに呆れていた・・・が、他にやることもなかったので、白きtureを観察し続けることにした・・・
*「・・・」
・・・白きtrueは待ち続けた・・・誰も知り様がなければそこに辿り着くこともできるわけがなく、しかし、
彼女はずっと待ち続けた・・・
やがて、世界の7割が黒きfalseで埋め尽くされたとき、彼女は見つけられた・・・
*「お前は・・・お前の名前は・・・――――だ・・・」
*「・・・はい。我が主・・・」
白きtureは自分を発見し自分に名前を与えてくれたその男につき従い、世界へ旅立って行った・・・
・・・なぜか凄く羨ましく、それでいて凄く妬ましかった・・・何故そんな気持ちになったのか・・・暫く
経ってから気がついた・・・私は白きtureと違って名前がある・・・私は黒きfalseのように世界に存在して
いる。
・・・でも、誰も私に気づいてくれない・・・私を見つけてくれない・・・何故・・・?私は・・・ここにいる
のに・・・誰も・・・灰色のnilわたしを見てくれない・・・
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・・
・・・
そして、私は世界を呪った、恨んだ、祟った、壊した、暴れた、弄んだ、殺した・・・私の力を持ってすれば
白きtureを黒きfalseに・・・その逆に黒きfalseを白きtrueに変えることだって容易い。
私には白きtureと黒きfalseを凌駕する力がある。
・・・それでも・・・世界は灰色のnilわたしを無視し続けた・・・
やがて・・・世界は白きtureと黒きfalseの2種類でしか構成されていない・・・と定義され・・・
私は世界に絶望し、1人灰色のnilの殻に籠っていた・・・しかし、不思議と涙は出なかった。
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・・・
・・・ある時、私に気づいてくれる存在が、私の力を望むものが、私を必要とするものが現れた・・・
私は彼女たちに惜しむことなく灰色のnilわたしの力を貸してあげた。私が・・・灰色のnilわたしの存在が世界に知れ渡る
のならば、私はどんなことだってする・・・
でも・・・それでも、世界は何も変わらなかった・・・悔しくてたまらないのに・・・不思議と泣くことは
出来なかった・・・
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・・・
そして・・・
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・・
・・・
今、私は白きtureと黒きfalseと共存している。
・・・なぜもっと早く気が付かなかったのだろう・・・私には名前があった・・・存在もしていた・・・
けれど、灰色のnilわたしは姿を持たなかった。姿なきものは認識されることもなく、また、姿なき故に泣くことも
叫ぶことも出来なかった・・・
今、私は満足している。世界は灰色のnilわたしを知り、見つけ、受け入れてくれた・・・だから、私はこの世界を
護ると決めた・・・未来永劫・・・いつまでも・・・
私は・・・ここにいる。
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・・
・・・
・・・灰色の少女の記録より抜粋・・・


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