Eighter -Scarlet Nocturne-
43rder 〜小国に消えた影札(ヴァルカナ) C〜



#5
マイク・ビーツ「おらおら!くたばれや〜」
 ブンブンと素人丸出しの攻撃を繰り出すマイクだが、例え小さくなってもそんな攻撃が與鷹(よたか)に当たるわけはない
のだ。
(かみ)総介「與鷹(よたか)、時間を稼げ!」
梓與鷹(よたか)「いいけど、どうするんだ?何か策でも?」
総介「今の俺ではコレが手一杯だ」
 そういって総介が取り出すのは藍后の刄(ブルーエンプレス)である。
 小さい体では蒼王の刃(ブルーロード)は扱いきれないのだ。
與鷹(よたか)「いいけど、正直あまり持たんぞ……」
総介「フッ……」
 そんなことを話すと、総介は一歩後ろへと下がり、與鷹(よたか)が攻勢に打って出る。
マイク「無駄だ!貴様らが何をしようが、小さきことは良き事なり(ミニマム・イズ・ステータス)からは逃げられない!」
與鷹(よたか)「公太子殿下がユーサーから何を吹き込まれたか知らないが、貴方は騙されているんだ!」
マイク「黙れ!全てはシーランド公国の繁栄のために!」
與鷹(よたか)「おおお!神狼九断(しんろうくだん)来護重(らいごうえ)!」
 ドゴオンッ
マイク「ぐっ……」
 決定打にはならないが、それでも、九つの拳を一つに纏めて繰り出す必殺拳は確実にマイクを追い詰めていく。
マイク「てめぇッ!」
総介「影蒼入滅(えいそうにゅうめつ)(きわみ)!」
 チクチクチクッ
マイク「ぐぐっ、地味に痛いッ……」
 藍后の刄(ブルーエンプレス)を地面に突き刺し、マイクの影から彼を貫く刃を出現させるも、痛痒くらいしか与えられない。
総介(やはり、今の俺ではあの程度しかダメージを与えられないか……)
 だが、気づいたこともある。総介の肉体は小さくなったが、蒼王の刃(ブルーロード)藍后の刄(ブルーエンプレス)は小さくなっていない。
 触れられたモノを小さくする幽闘術……であるならば、肉体以外は対象外となるのだろうか……しかし、服装も
肉体と同時に縮んでいることから、その可能性はない。
 だとすれば、なぜ蒼王の刃(ブルーロード)藍后の刄(ブルーエンプレス)は小さくならないのか……
総介(鬥址偶襾(ツァトゥグア)の加護のおかげ……か……)
 ならば、コレは状況を打破できる鍵となる。
 そして、この事実にマイクはまだ気づいていない。だから、決め手の一撃を繰り出すその時まで、ソレをマイク
に悟られてはいけない。

#6
與鷹(よたか)「ハァハァ……」
 それから暫く攻防は続き……ついに與鷹(よたか)も息が切れてきた。
マイク「げふ……ごふ……」
 そして、神狼九断(しんろうくだん)来護重(らいごうえ)を食らい続けていたマイクも蓄積ダメージが辛いようだった。
マイク「てめぇ……やはり、貴様はシーランド公国に仇なす外敵……」
 だから違うといっても、やはり聞く耳持たずなマイクであった。
マイク「認めよう、貴様の力を!……そして謝ろう、貴様の力を侮っていたことを!」
與鷹(よたか)「それはどうも……」
マイク「そして、ここからは本気で相手をしてやろう!」
 パッチィンと指を鳴らすと、なぜか黒子と呼ばれる舞台上で役者の演技を助ける後見人のような存在が出現し、
マイクにあるものを手渡す。
マイク「ここより先は、全力で相手をしてやろう」
 マイクが手にしたソレはバレットライフルだった。いくらなんでも殺意が高すぎる。
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「全力で殺しに来るにも程があんだろ!」
総介「フッ、だが、こんな至近距離でライフルなど馬鹿だとしか思えん」
マイク「死ぃね……」
與鷹(よたか)「おらあっ!」
 ガゴオオンッ
 普通に射撃をするかのように立った状態でバレットライフルを構えて射撃しようとした矢先、與鷹(よたか)はライフルの
下に回り込んでアッパーを食らわし、射線を思いっきり上空へとそらす。
※そもそも、バレットライフルって伏せた状態で撃つものなのでは!?
 ズガァムッ
マイク「あぎゃあっ!?」
 そして、素人がバレットライフルなどというアンチマテリアルライフルを使うと反動で肩の骨が外れるのは道理
であり、マイクも御多聞に漏れず痛い思いをする。
総介「臠蒼極連(れんそうごくりん)(あまつ)!」
 ズババンッ
 そして、その一瞬の隙をついて総介は背後からマイクに斬撃の嵐を浴びせる。
 まるで黒ひげ危機一髪の様にスポ〜ンとマイクの首が宙を舞い、そして、マイクはそのまま倒れて意識を手放す
のであった。
梶太郎(かぢだろう)「お、元のサイズに戻った」
 マイクが死んだことで、小さきことは良き事なり(ミニマム・イズ・ステータス)の効果もなくなり、與鷹(よたか)らも元のサイズに戻る
梶太郎(かぢだろう)「双虎拳鉄の掟、やられたらやりかえす、冪乗(べきじょう)返しだ!」
 過剰防衛にも程があるが、よく考えたら相手が1未満だったら逆に減るな……
與鷹(よたか)「死体に鞭うつのはやめておけ……」
 流石にマイクがかわいそうになったので梶太郎(かぢだろう)を止める與鷹(よたか)であった。

#7
與鷹(よたか)「……しかし、こうすることでしか解決できなかったのか?」
総介「……ああ……」
 マイクを止めるには殺すしかなかった。それがヴァルカナ争奪戦であり、ヴァルカナリアクターの宿命である。
 遺体の傍らに出現した赤いオーラを纏った仮面をつけた男性と-XIIの数値が描かれた透明なタロットカードを拾
いながら総介が呟く。
 もっと話が通じる相手であれば、こんな結末にはならなかったかもしれないと思うと、與鷹(よたか)はやりきれない気持
ちでいっぱいになった。
総介「ヴァルカナを確保した以上、長居は無用だ」
與鷹(よたか)「……」
 と、言うわけで、何事もなかったかのようにシーランド公国を去っていく與鷹(よたか)らであった。

 ちなみに二代目公太子たるマイクが死んだことで彼の息子であるジェイル・ビーツとリーアム・ビーツの兄弟は
自分こそが三代目公太子だと名乗りを上げた。
 そしてそれはシーランド公国を二分する相続争いへと発展し、騒動の果てにシーランド公国の滅亡が危ぶまれた
り、シーランド公国より更に小さい二つの国ができるんじゃないかと囁かれたりしたが、それはまた別の話である


END

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