Eighter -Scarlet Nocturne-
36ther 〜双虎は世界を廻す C〜



#5
化野梶太郎(あだしの・かぢだろう)「おあああ!」
毛禰魯(ねろ)「無駄なことを……」
 その後も何度か攻撃を繰り出すも、(ことごと)く回避され、手痛い反撃を食らう梶太郎(かぢだろう)。
梓與鷹(よたか)「も、もういい!」
 見ていられなくなった與鷹(よたか)は思わずそう叫ぶ
梶太郎(かぢだろう)「あぁ!?なんだと?」
與鷹(よたか)「後は俺が」
梶太郎(かぢだろう)巫山戯(ふざけ)るな!」
 ドゴオンッ
 いつになく怒りをあらわにして地面に拳を叩きつける。
(かみ)総介「やめておけ……」
與鷹(よたか)「しかし、総……」
梶太郎(かぢだろう)「これは双虎拳の問題だ!てめぇらが出る幕じゃねぇんだよ!」
 確かに、そうかもしれないが……と與鷹(よたか)が思う中、総介は與鷹(よたか)の肩を掴んで放さない。意地でも梶太郎(かぢだろう)に任せる
つもりだ。
総介「ここで死ぬなら、奴はそこまでの漢だったというまでだ!」
 ここから先、ヴァルカナ争奪戦を生き抜く力がないのならば、いっそここで死なせてやった方がいい。
與鷹(よたか)「ぐっ……」
 総介の気迫に気圧され、與鷹(よたか)も引き下がる。
梶太郎(かぢだろう)「双虎拳は双狼拳に助けられなきゃ戦えないほど落ちぶれちゃいねぇ!虎伏絶掌(こふくぜっしょう)!」
禰魯(ねろ)虎伏絶掌(こふくぜっしょう)!」
 梶太郎(かぢだろう)虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を使うならば、こちらも虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を使う。何を使おうが無駄だということを思い知らせる。
 そんな気配がひしひしと伝わってきた。
梶太郎(かぢだろう)「おおおっ!銀號懺月(ぎんこうざんげつ)!」
 ガオオンッ
 虎の方向の如き衝撃波……しかし、結果は同じ。
禰魯(ねろ)「中国四千年の歴史の前に鎮め!双虎王天撃(そうこおうてんげき)!」
梶太郎(かぢだろう)「ほげはぁっ!?」
 虎の前足と後ろ足で引き裂きにかかり、尻尾で繋がった二匹の虎をヌンチャクのように扱い打撃を繰り出し、更
に偃月刀と見紛うばかりの牙を生やした虎が刺突にかかり、虎の顔がドリルのように回転しつつ貫きにかかる。
 タイ〇ントオーバーブレイクのパクりにしか思えない双虎拳究極秘奥義が梶太郎(かぢだろう)に炸裂し、派手に吹き飛ばされ
る。
禰魯(ねろ)「完成だ!……これぞ美!これぞ強さ!これぞ美麗虎掌(びれいこしょう)!」
 やっぱりアクションペインティング。地面に梶太郎(かぢだろう)が叩きつけられることで大地をキャンバスに一枚の絵画が出
来上がる。
 ちなみに、その絵だが、『双虎拳破れたり!』って地面に描かれており、お前の使う拳法も双虎拳だろ!と突っ
込みたくなる與鷹(よたか)であった。

#6
梶太郎(かぢだろう)(……ぐっ、俺は……負けたのか!?)
ウェル(あ〜、うん。そね……)
 意識が飛ぶ……その瞬間、梶太郎(かぢだろう)は己と同化しているウェルと来るべき対話を行っていた
※いや、来たるべき対話って……
 そして、走馬灯のように過去の出来事が頭を過ぎる。
 先ほども言われた小さい頃の大怪我……そして、そこからの奇跡的な回復。
梶太郎(かぢだろう)「ちょ、ちょっと待て……」
 その時、梶太郎(かぢだろう)は気づいた。自分が昔、虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を使っていたという事実に
梶太郎(かぢだろう)「じゃあ、まさか……俺が虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を使いこなせない理由っていうのは……」
ウェル(あ〜、うん。そね……)
 既に虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を使っているからこそ、もう一度虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を使っても効果がない……
梶太郎(かぢだろう)「って、待てよ……じゃあ、なんで虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を重ねがけして効果があるんだ?」
ウェル(あ〜、うん。そね……)
梶太郎(かぢだろう)「会話をしろ!」
ウェル(あ〜、うん。そね……)
 しかし、決まったセリフしか喋らない魔導書娘にそんなことを言っても仕方がないのである。
 なお、虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を応用して体を動かしているので、虎伏絶掌(こふくぜっしょう)を重ねがけしても効果はある。ただし、効果が出る
までに時間がかかるという状態に陥っていたのだ。
梶太郎(かぢだろう)「奇しくも奴が言った通り、傷を負った俺では奴には勝てない……のか?」
 しかし、ここで梶太郎(かぢだろう)は再び思い出す。もともとウェルが梶太郎(かぢだろう)と同化したのは、ある死合で天宮裕(あまみや・ゆたか)に食らった
致死に近いダメージを回復させるためである。
 治療の為、命を繋ぎとめるためのウェル。
梶太郎(かぢだろう)「ちょっと待て……じゃあ、もしかして、その傷も治せるのか?」
ウェル(あ〜、うん。そね……)
 だったらはよ治せや!とツッコミを入れる梶太郎(かぢだろう)であった。
ウェル(あ〜、うん。そね……)
梶太郎(かぢだろう)「……」
 さておき、梶太郎(かぢだろう)の意識は再び浮かび上がる。

與鷹(よたか)「ちっ、やはり後は俺が引き継ぐしかないか……」
総介「いや、まだ奴の出番は終わりではない」
與鷹(よたか)「え?」
 ぐぐぐっ
梶太郎(かぢだろう)「……」
 総介に止められて梶太郎(かぢだろう)の方を見ると、丁度梶太郎(かぢだろう)が起き上がった所だった
禰魯(ねろ)「まさか、あの状態から立ち上がるとは……お前の評価を少し改める必要があるようだな……だが、満身創痍
のお前では僕に勝てないよ」

#7
梶太郎(かぢだろう)「ウオオオオオオッ!」
 大地を震撼させるような雄叫び。思わず禰魯(ねろ)も後退る。
梶太郎(かぢだろう)「いくぜ、オラアッ!」
禰魯(ねろ)「やれやれ……何度やっても同じことです。お前では僕には勝てな……」
 ドゴオンッ
禰魯(ねろ)「へぶっ!?」
 油断していたということもあるが、梶太郎(かぢだろう)の動きに反応できなかった禰魯(ねろ)は、梶太郎(かぢだろう)の拳を顔面にマトモに食ら
う。
総介「フッ、これで、勝負は決まったな……」
與鷹(よたか)「いや、まだ一撃いれただけだけど……」
 既に終わったつもりで帰り支度をする総介に困惑が隠せない與鷹(よたか)。
 ボタボタ……
禰魯(ねろ)「てめぇ!てめぇ!てめぇ!俺の美麗な顔に傷をつけやがって!殺す!もう殺す!てめぇはもう殺す!」
 サワヤカなイケメン顔に拳の跡と鼻血……それがきっかけで禰魯(ねろ)はブチ切れた
與鷹(よたか)「第一人称変わった!?」
禰魯(ねろ)「貴様は俺が使う真の双虎拳、人滅虎掌(じんめつこしょう)で殺す!楽に死ねると思うなよ!」
 さっきとは打って変わって凄まじい殺気が当たりを支配する。
梶太郎(かぢだろう)「へっ、やってみろよ!」
 それが禰魯(ねろ)の本性だとしても、もう何も怖くない梶太郎(かぢだろう)であった
※その言い回しは死亡フラグだから!


END

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