Eighter -Blindness Wizard-
20ther 〜黎光(ひかり)皎影(かげ)の柳生 A〜



#0
 これは柳生新陰流の物語である。
 柳生新陰流といえば赫眼(かくがん)同盟にいるあの娘……彼女は尾張柳生の柳生兵庫助の子孫として有名である。
 だが、柳生といえば誰しも知るアノ人物をご存じだろうか?……そう、江戸柳生で有名な柳生十兵衛のことであ
る。
 これは、そんな尾張柳生と江戸柳生の確執に迫る物語……だったらいいなぁ
※をい……

#1
 天四斗(あまよと)、修羅の門
 それは、ある日の出来事、天四斗(あまよと)の裏社会に一人の少女が舞い降りたことから話は始まった。
 彼女は……眼帯をつけた柳生兵子(ひょうこ)とでも形容するしかない程に兵子(ひょうこ)に似た少女であった。だが、彼女は兵子(ひょうこ)では
ない。
 彼女は柳生十兵衛の子孫、名を柳生衞琉(えいる)という。
*「あぁ?なんだ貴様ぁ……」
*「ここが天四斗(あまよと)裏社会最大の名所『あの世への入り口』と知っているのか?」
※名所というか、(むし)ろ迷所……
 ゲラゲラと小馬鹿にしたような笑いがあちこちから聞こえる。
柳生衞琉(えいる)「失せなさい……」
 そんな有象無象に対して、ただ一言そういった彼女に対し、笑い声がピタリと止まる。
*「どうやら貴様、死にたいようだな……」
*「俺は男女平等主義でなぁ、女子供でも容赦はしねぇぜ!」
 そう宣言してバカどもは武器を手に衞琉(えいる)を取り囲む。
衞琉(えいる)「もう一度だけ言う……今すぐ失せなさい!」
一同「ハッ!貴様こそ、死ねぇやぁッ!」
 だが、そんなことを言われて引き下がる奴は、この場には居合わせていなかった。一斉に衞琉(えいる)目掛けてとびかか
る無法者。
 ドッ
一同「ンな、にぃ!?」
 だが、次の瞬間、襲い掛かってきた誰もが、エモノを失っていた。
 柳生新陰流、無刀取!襲い掛かってきたバカども全ての得物は衞琉(えいる)が指と指で挟んで奪い去っていたのだ。
*「こ、こいつ!?」
 その時、初めて一行は戦慄する。俺たちは狩る側ではなく、狩られる側だ……と。
*「これは、これは、ようこそおいでくださいました」
一同「なっ、あっ、貴方様はぁ!?」
 その時、修羅の門の奥より一人の漢が出現、恭しく衞琉(えいる)(こうべ)を垂れる。
 彼の名は紗魏雪兎(しゃぎ・ゆきと)。ここ、修羅の門の管理者である。
*「紗魏(しゃぎ)ぃ兄!……あの女は一体何なんだぁ?」
紗魏雪兎(しゃぎ・ゆきと)「あぁ、彼女は柳生衞琉(えいる)……一言でいえば孤高の剣鬼の後継者ってところだ」
一同「なっ、にぃ!?孤高の剣鬼のッ?!」
 孤高の剣鬼……裏の世界でその名を知らないものはいない。
*「だ、だがよぉ、あいつの後継者ってのは、奴の姉、非情の剣鬼なんじゃねぇのかよ?」
 一人の無法者がふと、気づいた疑問を投げかける。

#2
雪兎(ゆきと)「孤高の剣鬼の後継者が一人だと、いつから錯覚していた?」
 眼鏡を砕いて神になるとか言い出した死神みたいなことを言い出す雪兎(ゆきと)であった。
一同「……」
雪兎(ゆきと)「さて、こちらへ……」
 いうことは全て言った……といわんばかりに雪兎(ゆきと)衞琉(えいる)を修羅の門の奥へと案内するのであった。

 それから数日後……
衞琉(えいる)「……私を観察して、楽しいですか?」
 何者かの視線に気づいた衞琉(えいる)は、その視線に対して振り向くことなく呟く。
レヴィアタン「ほぅ……」
 そこには場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)、上位存在、七罪塔(しちざいとう)が《嫉妬(エンヴィー)》レヴィアタンがいた。
 まさか気づかれるとは、と驚きを隠せないレヴィアだが、どう見ても驚いているようには見えない。
レヴィアタン「楽しいか、楽しくないかは関係ないわ……ただ、あなたを誘いに来たのよ……」
 正確には唆しに来たが正しいが、衞琉(えいる)はそんなこと知る由もなかった。
衞琉(えいる)「誘う?」
レヴィアタン「ええ、ここ天四斗(あまよと)にはあの娘がいるんですもの……」
 くすくすと笑いながらそんなことを呟くレヴィア。
 イマイチ言葉のキャッチボールがうまくできていないように思えるが、突如、衞琉(えいる)は振り返ると同時にすさまじ
い殺気を放つ。
レヴィアタン(かかった!)
衞琉(えいる)「貴様ッ!」
 ぐるぐる、ぐらぐらと怒りが燃え滾ってくる。……いや、(むし)ろ、怒りで我を忘れてしまっている様子だ。
レヴィアタン「貴方は裏の世界でしか生きられない……でも、あの娘は違う……」
 だから、その場所を貴方が奪ってしまいなさいな……そんなレヴィアの言葉に衞琉(えいる)は唆されてしまう。
 これが、人間を道具として使い潰す場違いな黒き遺物(ネガティヴ・オーパーツ)の本領発揮というものだ。
 こうして、怒りに燃え狂う衞琉(えいる)は修羅の門を後にするのであった。

 天四斗(あまよと)赫眼(かくがん)同盟本部
伊達宗美「はぁ〜〜〜。ヒマだねぇ〜〜〜なぁ、兵子(ひょうこ)……」
※いつもヒマだって言っているイメージがある宗美……いや、実際はそんなに暇ではないとは思うんだけど……
柳生兵子(ひょうこ)「……」
 宗美に絡まれて(?)もどこ吹く風の兵子(ひょうこ)
宗美「なぁなぁ、暇つぶしに死合わないか?」
 既に愛刀の村正・梵天丸に手をかけながらそんな物騒なことを呟く宗美。
 と、そのとき、だんまりを決め込んでいた兵子(ひょうこ)が突如すっくと立ちあがる
宗美「おっ、死合う気になったか!?」
兵子(ひょうこ)「袂を分かった古き(ともがら)が……来ます」
宗美「はぁ?……また天のお告げってヤツかい!?……全く、好きだねぇ、そういうの?」
※いや、別に兵子(ひょうこ)も好き好んでやっているわけじゃないと思うのだが……
 ソレは柳生衞琉(えいる)のことだろう……
 かくて、因縁の死合は始まる。


続

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