Eighter -Bizarre Investigate-
50ther 〜(あお)り運転の明かり〜



#0
 (あお)り運転、それはドライビングテクニックにおける悪逆非道のキチガイ行為。
 今や交通事故に遭遇することよりも(あお)り運転に遭遇することの方が恐怖となっている時代である。
 そして、これはそんな(あお)り運転に敢然と立ち向かった漢に纏わる事件簿である。

#1
 埼玉県、三郷市、常磐道
 その日、埼玉県警の連中は、怯える男性の通報を受けて、常磐道へと駆けつけた。
*「殺されるかと思った……」
警官「一体、何があったんです!?」
*「警部さん……」
 ガシっと警官に抱き着く感じでとつとつと語り出す男性。
 常磐道を走っていたこの男性は、前方を走る車をちょいと追い越した次の瞬間、クラクションを鳴らされ、もの
凄いスピードで追いかけられたのだという。
 それだけではない。一気に彼の車を追い抜いたかと思うとそのまま蛇行運転で彼の進路を阻害し、停止させると
同時にこちらへ殴り込んできたのだという。
 さらに、その車に乗っていた女性はゲラゲラと笑いながらガラケーで一部始終を撮影するなどというトンでもな
いことをしでかしたのだとか……
 これが、常磐道あおり運転殴打事件。その開幕を知らせるゴングであった。

 埼玉県、埼玉県警
警官「黒酢(くろす)警部……ドライブレコーダーに記録されていた映像から、被害にあった男性が訴えていたこ
とは真実だと言うことが明らかになりました!」
※いや、お前ら被害者の言葉を疑ってたの!?
警官「あ〜〜、黒酢(くろす)警部、犯人が使っていた車なんですが……」
黒酢卵油(くろす・らんゆ)「おっ、何かわかったのか?」
警官「それが、代車のようでして……」
 車を貸し出した方にしても青天の霹靂で驚きを隠せない様子だったとか。
警官「黒酢(くろす)警部……大変です!また例の(あお)り運転が発生しました」
一同「何ぃ!?」
 今回も犯行に使われたのは代車。そして、ゲラゲラ笑いながら一部始終をガラケーで撮影する女もいたというこ
とから完全に一致というヤツであった。
警官「奴は今後も代車を用いて犯行を繰り返す可能性があります……」
卵油(らんゆ)「うむ。ならば、代行サービスを行っている会社に指名手配としてコイツのポスターを……」
警官「任せてください。こんなこともあろうかと思って」
卵油(らんゆ)「おっ、仕事が早いな」
警官「いえ、これからポスターを作ろうと思っていたところです」
一同「……」
 じゃ、『こんなこともあろうかと思って』じゃねぇよ!

#2
 その後、代車サービスにポスターが行き渡るまでの間にも事件は続いた。
 いずれも代車を用いた犯行であること。犯人が殴りかかってくること。ゲラゲラ笑いながら一部始終をガラケー
で撮影する女がいたこと。
 この三つが共通していた。更にそれだけではない。犯人は殴り込みにかかった際にドライブレコーダーを殴って
破壊するようになったのだ。
 事件を重く見た埼玉県警は最初の犯行で記録されたドライブレコーダーの映像を一般公開。
 こうして、常磐道あおり運転殴打事件……その主犯は世間に広まったのであった。

卵油(らんゆ)「代車サービスを行っている会社にポスターは行き届いたな?」
警官「はい」
卵油(らんゆ)「ではこれより、この犯人を検挙するための作戦会議を行う」
 埼玉県警の調査により、どうにか犯人を特定することができた。犯人の名は宮崎晩夫(おそお)、44歳。そして彼と行動を
共にしていたガラケー女は修羅独活(しゅらうど)知世、42歳。
 代車サービスを潰された今、二人の逮捕は目前と思われた……
 しかし……事件は終わらなかったのである。
警官「黒酢(くろす)警部……また(あお)り運転です」
卵油(らんゆ)「何だと!?馬鹿なッ!」
 代車サービスは使えないはずだ……と驚愕する一行だが、晩夫(おそお)氏が持っている車で犯行を行う可能性があるので
はないか?とか考えなかったのだろうか?
警官「いえ、今度は代車じゃないのです」
警官「どういうことだ!?」
卵油(らんゆ)「そうか!ホシが持つ本来の車ってことか!」
警官「いえ、試乗です」
一同「はい!?」
 今回晩夫(おそお)氏らは車を扱う店に夫婦として訪れ、店で一番の車を試乗したいと申し出たそうだ。
 当然、試乗には店のスタッフが同乗することが義務付けられているのだが、晩夫(おそお)氏は車を試乗できる段階までこ
ぎつけたところでスタッフをボコボコに殴りつけてそのまま車を盗む勢いで女とともに試乗し、(あお)り運転へ向かっ
たのだという。
卵油(らんゆ)「クッ、なんという執念……」
警官「それだけではありません。(あお)り運転に触発された馬鹿どもが全国各地で出現している模様でして……」
卵油(らんゆ)「何だと!?」

#3
 今や(あお)り運転はヤクザなドライバーの中では一大ムーブメントになってしまったのであった。
※一説によると自動運転のシステムを開発している会社が自動(あお)り運転のシステムを開発しようと研究に乗り出し
 たなどという報告まであったというが、定かではない。

 しかし、事件は突如として幕を閉じる。
 いや、全ての事件が終息したのではない。常磐道あおり運転殴打事件が突如終わりを告げたのである。
 またしても常磐道から、女性の切羽詰まった通報を受けて埼玉県警が駆けつけると、そこには右腕だったモノを
押さえて藻掻き苦しむ男性と、ガラケーを落としてがたがた震える女性の姿があった。
 言うまでもなく例の二人である。
警官「い、一体、何が?!」
 どうやら、いつものように(あお)り運転を行い、止めた相手の車が窓を開けたら勢いよく拳を突き出してボコボコに
殴ろうとしたようだ。
 しかし、拳を突き入れた瞬間、腕がズタズタに切り裂かれてしまったのだという。
 そう、被害にあった車は車内に鋼線を仕込んでいたのだった。それでは刃物の中に拳を突き出すとの同義である
 こうして、宮崎晩夫(おそお)は右腕の肘から先を失い(あお)り運転どころか通常の運転さえできない体となってしまったので
あった。
 なお、宮崎晩夫(おそお)のドライバー人生にトドメを刺した被害者(?)は不明のままであったという。


END

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