Eighter -Blindness Wizard-
17ther 〜神代の対魔拳覚醒 B〜



#3
 風雲急を告げる!
 突如明らかになった與鷹(よたか)の秘密。それはこの死合に何を(もたら)すのか……
ラキエル「ちょ、ちょっと待ってください。ネサリウス様!どうしてそれだけで断言できるんですか?」
 第一、ディエクーラウ・アズルサが梓大九郎であるという確証はテノの証言のみで、決定打とは言えない。
 そして、それが本当かどうかすら怪しい
ネサリウス「テノはもともとディエクーラウ・アズルサが使役していた魔導書娘だからだ!」
一同「んなッ!?」
 そのテノが言うのだから、これ以上の証拠はない!
ネサリウス「そうか……だから、あの時、テノはシレントワイザードの元へ戻ってこなかったというわけか……仮
初の主よりも、元々の主の子孫の方へ戻っていった……」
 ズドゴォンッ
 と、その時、激震一発。無論、(ゆたか)の仕業である。
天宮裕(あまみや・ゆたか)「ンなこたぁ今はどうだっていいんだよ!」
 今は俺の恨みを與鷹(よたか)にぶつけるのが先決!と無茶苦茶な事を言い出す(ゆたか)
ネサリウス「はっ、マズい……奴が魔術師だとすればこの死合、どう転ぶか不透明……」
 與鷹(よたか)の力、それはあまりに未知数。自分が知りえた情報が全てという情報オタクであるネサリウスにとって情報
が無い相手というのは厄介極まりない相手に他ならない。
 故に、ここは撤退一直線。
ネサリウス「ウディン、ここは退け!」
(ゆたか)「ざけんなッ!逃げたければ貴様だけで逃げろ!」
ラキエル「貴様、ネサリウス様になんて暴言を……」
 最早與鷹(よたか)そっちのけで仲間割れが始まりそうな雰囲気である。
ネサリウス「いいだろう、ならば見学させてもらおう」
ラキエル「ネサリウス様!?」
 ここでネサリウスは瞬時に頭を切り替えた。通常なら逃げ一択だが、ウディンは愚かにも死合を続けるという
 ならば、ウディンと與鷹(よたか)との戦闘データを収集して次に生かすことがネサリウスの仕事である。
(ゆたか)「ならば、そこで見とけ!この俺様が與鷹(よたか)をブチ殺すその瞬間をなぁ!」
 サービスだ!思いっきりグロテスクに殺してやる!とか迷惑極まりないことまで言い出す始末。
テノ「だるだる〜〜」
梓與鷹(よたか)(全く、何だってんだ……俺が魔術師の子孫!?)
 そんなことを突然言われてもどうしろって言うんだ……と困惑気味の與鷹(よたか)。
 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。迫りくる(ゆたか)の兇刃(拳だけど)をどう防ぎ、この状況をどう
切り抜けるか……
與鷹(よたか)「あ……れ!?」
 その時、突如、與鷹(よたか)の意識はブツンとまるで電源が落ちたかのように切れる。

#4
*「急なことでスマンが、お前には今すぐ選択をしてもらうことになる……」
 すなわち、魔術師か死か……
※実質一択すぎる件
 突如謎の声が與鷹(よたか)の頭に響き渡る。
 いや、最早與鷹(よたか)はこの声の主を知ってた。梓大九郎……ディエクーラウ・アズルサだ!
與鷹(よたか)「俺は生粋の拳法家だ……今更魔術師にジョブチェンジなんてする気はさらさらないぜ」
梓大九郎「ならば魔術が使える拳法家として生きればいい」
與鷹(よたか)「アンタも無茶苦茶だな……」
 だが、魔術が使える拳法家ならば既に目の前にいた。
與鷹(よたか)「あいつと同じってのが癪なんだが……」
大九郎「フッ、お前はあいつが自分と同じ双狼拳(そうろうけん)の使い手であることが癪か?……それは恥じることか?」
與鷹(よたか)「……なるほどな、確かに……」
 双狼拳(そうろうけん)伝承者であること、それは與鷹(よたか)にとって恥じることではない、(むし)ろ、誇ることだ!
※恥ずかしいのはアッチの方が『"そうろう"拳』って場合ですね。(何言ってんだお前……)
與鷹(よたか)「いいぜ、覚悟は決まった!」
大九郎「ならば唱えるがよい!」

 それはほんの一瞬の出来事だった……あるいは時間が止まっていたのかもしれない……
 ともかく、與鷹(よたか)は再び意識を取り戻し戦場へ赴く
與鷹(よたか)真書須らく翻れ(ウバゼッツァー)!」
 カカッ
一同「うっ、何ぃ!?」
 與鷹(よたか)の叫びと共に、テノが綴じ合わせが解かれた本のように無数の紙片となりて宙を舞い、彼を包み込む。
(ゆたか)「貴様ァ!」
 よりにもよって俺の真似事をぉ!と(ゆたか)の怒りは頂点に達した。
ネサリウス「馬鹿な……今しがた魔術師として目覚めたような奴が、魔術師が到達する一つの究極に?!」
 近場に座って観察していたネサリウスが思わず立ち上がって叫んでしまう。
ラキエル「ネサリウス様、それはどういう?」
 つられてラキエルも立ち上がる。
ネサリウス「我ら魔術師が魔導書の力を借りて戦うフォーム……我が元に帰れ(ヴォレーゲン)のことはもはや説明する必要もある
まいが、アレは魔導書の力全てを引き出しているわけではない」
ラキエル「なっ、ネサリウス様……それでは、まさか!?」
 あぁ、そうだといわんばかりに頷くネサリウス。
 ガシィッ
(ゆたか)「何!?……馬鹿なッ!そんな馬鹿なことがッ!」
 その頃、與鷹(よたか)は迫りくる(ゆたか)の魔術がこもった拳をこともなげに左手で受け止めていた。
與鷹(よたか)「魔道に落ちたお前の邪拳……今ここで引導を渡してやる!」
 ググっと握りしめた右手に魔力が籠る。
 今、因縁の死合に幕が下りる!?

#5
(ゆたか)「……だがっ、貴様にもう一つ教えてやる!なぜ俺がこの場所を選んだのか、その意味をなぁッ!……凍てつく
無貌の闇に包まれし黒き魔星、その御力、我が拳となりてここに顕現せよ、ヤークシュ!」
 カキィンッ
 近くにあった氷河が(ゆたか)に力を貸す。
 ネサリウスの元で修業を積み、氷の魔術を習った(ゆたか)は大自然の氷を味方につけるべく日本に数少ない氷河がある
剱岳を戦場に選んだのだ。
(ゆたか)滅狼凍河塵(めつろうとうがじん)!」
與鷹(よたか)神狼九断(しんろうくだん)翳噛(えいごう)ッ!」
 ズドドドドドドドドドッ
 ズドドドドドドドドドッ
 冷気を纏った黒い気の拳で與鷹(よたか)をズタズタに切り刻む……そう、それが決まればの話だ……
(ゆたか)「うぼあっ!?」
 だが、実際には(ゆたか)よりも與鷹(よたか)の拳の方が速かった。
 刹那の瞬間に繰り出される九回の拳打……そして、それだけではない。まるで影の如く、もう九回の拳打が(ゆたか)を
完膚なきまでにねじ伏せる。
(ゆたか)「ばっ、馬鹿なッ!この、俺様がぁッ!」
 そのままガクリと気を失う(ゆたか)であった。
ネサリウス「データは取れた……あとは次に生かすのみ……」
 そして、それからのネサリウスの行動は早かった。
 カカッ
與鷹(よたか)「くっ!?」
 魔術を駆使した閃光。その隙にラキエルをこき使って(ゆたか)を回収すると一目散に撤退。
與鷹(よたか)「やれやれ……」
 こうして、因縁をつけてくる困った相手、(ゆたか)を退けることに成功した與鷹(よたか)だったが、どうやらこれで終わりそう
にはなさそうだ……


END

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